----第三話----
仕事が終わった後、私は繁華街に向かった。
セールスパーソンの着ている堅苦しいスーツ姿の女なんて、ここではとても浮いて見える。
とはいえ、女が一人で歩いていると、スカウトとかナンパとかとにかく次から次へと声をかけられる。
「うるさい、どいてろゴミ!」
声をかけられるたびに、私は乱暴にそう言い放つ。
運がよければ、逆上した男が殴りかかってきてくれたりする。
そしたら魔法少女の出番なわけ。
私はいつもこんなことをしているから、ミスティシャーベットは私のことをマークしているっぽい。
ピンチになったらすぐに助けに来てくれるんだから。
なるべく怪しい場所、暗い場所を探して歩く。
裏道に入っていく。
今日は繁華街にしたけど、その日によって選ぶ場所は違う。
人通りのない住宅街だったり、ホームレスが暮らす広い公園だったり。
それがどこであっても私がピンチになると、三分以内にはミスティシャーベットが来てくれる。
とにかく、私はミスティシャーベットに逢いたいのだ。
そのためなら多少の危険は冒してもいいと思っている。
最高に怪しい風俗店がならぶ路地を歩く。
昔の赤線地帯だとか聞いた。
車一台がなんとか通れるくらいの道幅、その路地沿いにはずらーっと風俗店が並んでいる。
ま、この中には女性でも風俗嬢と遊べるお店があったりする。
なんで知っているのかというと、それは秘密なんだけど、とにかく秘密なのだ。
さて、その路地を通り過ぎてさらに奥の方に、ちっちゃな公園がある。
小高い丘を背にした神社のとなりの公園で、住宅街からも遠い。
夜中に女性が一人で来るのに、ここ以上に危険な場所なんてそうないと思う。
私はそこの公園に入ろうとして――。
さっそくきた。
「おねえさん、まさか一人?」
若い男が二人。
暗くて、顔どころか、どんな格好をしているかすらもわからない。
「そうですけど、なにか?」
そう答えると、
「ちょっと遊ぼうよ」
といって私の手を取った。
「やめろクズッ!」
私は叫ぶ。
「ああ? クズって俺のことかぁ?」
男は怒りを含んだ声でいった。
うん、いつもならそろそろ彼女が登場するころだ。
「クソ男が、キモすぎんだよ、さわんなキモ男」
調子に乗って挑発しすぎてしまった。
次の瞬間、男のこぶしが私のおなかにめりこんでいた。
「……っ!? ……はっ、ぁぅぅぅ……」
思わずその場にへたりこむ。
痛い、というよりも苦しい。
目の裏で火花が散り、横隔膜がピクピクと痙攣して息ができなくなる。
殴られたのはおなかなのに、頭蓋骨の中で鉄球がガンガンとぶつかりながらとびまわっているような頭痛が襲う。
涙がぶわっと飛び出した。
全身がしびれる、男に本気で殴られるってこういうこと?
いや早く助けに来てよ、いつもなら男が近づいてきた時点で来てくれるじゃない。
なんで今日は来てくれないの?
『次からは、もう助けませんから』
ミスティシャーベットの声が聞こえる。
あれ、本気だったんだ?
いつもいつもわざと人に襲われるようにしている私に呆れて、ミスティシャーベットは見捨てることにしたの?
そんな、じゃあ私は……。
そしてそう思ったとき、今度は男の蹴りが私の顔面にクリーンヒットした。
目の前が真っ暗闇になった。
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