第3話『I doll』

「へえ、本当に可愛いね。髪は周囲を明るく照らすほど眩く、瞳はダイヤモンドが埋め込まれてるかのようだよ」


 人形屋の店主、リーファ・サザーランドさんは私をジロジロと舐め回すように見ていました。

 二十代半ばくらいの女性で、燃えるような赤毛が特徴的です。


「早速採寸に入りたいのだが、いいかい?」

「いいで」

「ダメですよ!」


 店主としーちゃんの会話を妨害し、私は距離を取ります。


「大体何なんですか、等身大ドールって」

「その名の通りだよ、見た目や採寸、全く同じ人形を作るんだ。売れるよ」

「売れるやろなぁ」


 しーちゃんは私を見ながら、謎の同意をしました。


「特にあのエンジェル探偵の人形なら、大ヒット間違い無しだ。本人を採寸、スリーサイズを完全再現と銘打てば飛ぶように売れるぞ」

「間違いないで!」


 しーちゃんはうんうんと頷きます。

 私は呆れながら、店内を見渡しました。

 パステルカラーに彩られた店内には可愛い人形に溢れ、女の子なら入るだけで幸せな気分になれそうなお店です。

 私だって小さな頃はお人形さんで遊んだりしましたが、等身大の人形だなんて……。


 前もあったんですよね、こういうの。

 衣服店から、エンジェル探偵の探偵衣装を是非作らせて欲しいとお願いがあり、私はその服屋の専属モデルのようなことをやらされてます(今来ている探偵服もそうです)。


 これが中々に効果があったようでして、私の着ている探偵服は大人気となり、若い女性の間で流行っているとか(可愛らしいデザインで実は私もお気に入りです)。


 そして、しーちゃんはそのマージンを受け取ってお金を稼いでいるのです。

 かなりの額を。

 なんなら、探偵業よりも稼いでいるくらいです。

 まあ、そのお金を持ってしても家賃を払うのに精一杯なのですから、困ったものです。

 あそこの家賃、一ヶ月で一般的な人の年収くらい必要なんですよね。


「なあ、頼むで、シャロ。お金が必要なんや」

「それは、まあ……分かりますけど」


 悩む私にリーファさんは、


「そうだ、こっちに等身大のが一つある」


 と等身大のドールを持って来てくれました。

 怪盗ビックボインのドールを。


「なんでビックボインのなんや」

「仕方ないだろ、人気があるといったら怪盗ビックボインかエンジェル探偵のどちらかなんだから。こないだも一つ注文があったんだよ」


 あちらは悪事を働いておりますが実力での人気。

 対して私は見た目の良さだけの人気です。

 皮肉なものです。


「しかし、本当によう似とる」


 としーちゃんは怪盗ビックボインと私を見比べました。

 そう、似てるんですよね。

 私と怪盗ビックボインって。

 あまりに似てるので、一時期私が怪盗ビックボインの正体なんじゃないのかと疑われたこともありました(これが私が有名になるきっかけです)。

 まあ、何度も対面で向かい合っていますので(先日もお互いに手を振りましたね)、疑いは早々に晴れました。

 ですが、似ているのを理由に私は怪盗ビックボインの予告現場には立ち入らせてもらえなくなりました。

 怪盗ビックボインが私に変装するのを避ける為ですね。

 怪盗ビックボインの依頼が来なくなったのは事務所の失墜もありますが、私の外見が怪盗ビックボインに似ているから––––というのもあります。


 私は恨みも込めて怪盗ビックボインのドールを覗き込むように見ました。

 本当によく出来てますね、怪盗ビックボインに瓜二つです。

 これがショーウィンドウに飾られていたら、本物と間違えてしまうくらいに。

 ……っ!


「そうや、怪盗ビックボインは飛んだんやない! ダミーを飛ばして、自分は別の手段で対岸の屋根に登ったんや!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る