第44話:友達と真唯に全力で応援される

 金曜日の放課後。


「へぇ、早紀にお弁当を作ってあげるんだ!」

「うん、そうなんだ」

「はは、そりゃあ面白そうだなー。頑張れよー」


 俺は学校の自販機前で偶然出会った桜井さんと夏江とそんな話をしていっていた。


「うんうん、それは頑張らないとだね! 私も山田君のお弁当作り応援してるよ!」

「二人ともありがとう! あ、それでさ、ちょっと桜井さんに聞きたい事があるんだけどさ」

「うん? 何々? 何でも聞いてよー!」

「うん、それじゃあちょっと桜井さんに教えて欲しいんだけどさ……佐々木さんって何か好きな食べ物とかあったりするかな?」

「え? 早紀の好きな食べ物?」

「そうそう」


 俺は昔佐々木さんに好きな食べ物は肉料理全般だって聞いた事はあった。


 でも具体的にどんな肉料理が好きかまでは知らなかったので、桜井さんがもしも知ってるようなら是非とも教えて欲しいと思ってそう尋ねていってみた。


「うーん、早紀の好きな食べ物かぁ……いや早紀って正直好き嫌い一切無いからあんまりそういうの聞いた事が無いんだよね。ごめんね、参考にならなくて……」

「あ、そうなんだ? ううん、そんな事言わなくて大丈夫だよ。全然気にしなくて良いからね!」

「うん、ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。でも早紀の食べたい物を作ってあげようするなんて……ふふ、山田君って本当に優しいよね」

「あはは、そりゃあいつも佐々木さんに美味しい物を沢山食べさせて貰ってきたからね! だからその恩を返すためにも佐々木さんの好きな物を作ってきて美味しく食べて貰いたいなって思ったんだ」

「そっかそっか。うん、その気持ちがあるなら十分大丈夫だよ」

「え? どういう事?」


 桜井さんは優しく笑みを浮かべながら大丈夫だと俺に言ってきてくれた。でもどういう事かわからなかったので、俺はキョトンとした表情で桜井さんにそう尋ね返していった。


「ふふ、実は私さ、昔早紀に美味しいご飯を作るコツってのを聞いた事があるんだけどね……その時に教えてくれたのは“料理は気持ちだよ”って言ってきてくれたんだ」

「気持ち?」

「そうそう。美味しい物を作ってあげたいとか、喜ばしてあげたいっていう気持ちが料理を何倍にも美味しくさせるんだってさ。だからその気持ちを持っている今の山田君なら……きっとどんなお弁当を作っても美味しいお弁当になるはずだよ!」

「そっか。うん、わかったよ。それじゃあ料理の腕は全然ないけど、それでも気持ちだけは全力を込めて作ってみる事にするよ!」

「うん! 全力で頑張ってね! 私も全力で応援してるよ!」


 桜井さんは満面の笑みを浮かべながらそんな頼もしいエールを俺に送ってきてくれた。よし、それじゃあ桜井さんのエールに応えるためにも全力を出して頑張っていくぞ!


「あはは、でも和樹って本当にアレだよなー?」


 そんな感じで俺は全力でやる気を出していってると、今度は夏江がニヤニヤと笑いながら俺に声をかけてきた。


「? アレって何だよ?」

「はは、そんなの決まってんだろー。佐々木さんのために美味しいお弁当を作ってあげたいって公言する辺り……やっぱり和樹って――」

「夏江君ストーーーップ!!!」

「って、うわ!? び、びっくりした!?」


 すると急に桜井さんは夏江が喋るのを全力で制止してきた。そしてそのまま二人はこそこそ話を始めていった。


(ど、どうしたの桜井さん?)

(こら! 駄目でしょ夏江君! まだ山田君は自分の気持ちを理解してないんだよ!)

(え!? そ、そうなの!?)

(そうなのよ! だから山田君がその気持ちを自覚する前に私達が先に伝えちゃうのは絶対に駄目! ちゃんと山田君には自分の気持ちを自分で理解させなきゃ!)

(そ、そっか……うん、わかったよ、桜井さん)


「……えっと、どうしたの二人とも?」

「えっ!? あ、あぁ、いや何でもないよ! ね、夏江くん!」

「えっ!? あ、あぁ、うん! そうそう! 何でもないよ!!」

「?」


 という事で結局二人が何をこそこそ話してたのかはわからないままだった。まぁでも変な話はしてなかったと思うし気にしないでいいか。


◇◇◇◇


 それから数時間後。


「ただいまー」


 俺は駅前のスーパーで買ってきた大量の荷物が入ったビニール袋を両手に持ちながら家の玄関を開けていった。


「おかえりなさいー! って、えっ!? ど、どうしたのお兄ちゃん!? その沢山の荷物!?」


 玄関を開けると妹の真唯がすぐに出迎えてきてくれた。でもその瞬間、俺の両手に持っている大量の荷物を見てかなり驚いた表情を浮かべてきていた。


「んー? あぁ、さっきまで買い物をしてたんだよ。月曜日に昼飯用のお弁当を作ろうと思ってさ」

「え? そうなの? まぁお兄ちゃん最近はちょっとずつ料理の練習してるしお弁当を作るのも全然良いと思うんだけど……でもそれにしては材料多すぎない? お兄ちゃん一人分の量にしては流石に……」

「あぁ、いや、実は友達の分も作ろうと思ってるんだ。だから厳密に言えば二人分って感じだな」

「へぇ、そうなんだ? ……って、あっ! もしかしてそのお友達って……例の佐々木さんの事?」

「え? あぁ、うん。そうだよ。真唯にドーナツを作ってくれたりカップケーキとかのレシピを教えてくれたあの佐々木さんだよ」

「へぇ、そうなんだ! ふふ、そっかそっかー! なるほどねー!」


 俺がそう言っていくと急に真唯はニヤニヤと笑いだしてきた。


「? どうしたよ真唯?」

「ううん、何でもないよー! でもそれじゃあ佐々木さんに美味しいお弁当を作れるように全力で頑張らなきゃだね、お兄ちゃん! 私もお兄ちゃんの事を全力で応援してるからね!」

「あ、あぁ、ありがとな、真唯?」


 何だか真唯は意味深な笑みを浮かべてる感じだったけど、俺は気にせずそのままありがとうと伝えていった。


 それにしてもこんな短期間に桜井さんや夏江に真唯といった沢山の人から頑張れってエールを送って貰えるなんて本当に嬉しい限りだよな。


 これは応援をくれた人達のためにも全力でお弁当作りを頑張って行かなきゃだな!

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