第42話:その日の夜(早紀視点)
その日の夜。
「う、うぅ……うぁああ……!」
私は自分の部屋のベッドの枕に顔をうずめながら唸り声を上げていっていた。
本当なら身体全部を使ってジタバタと悶えたいくらいなんだけど……でも今は足を怪我してしまっているので流石にそんな事は出来ない。
だって今の私の足首は包帯とテーピングでしっかりと固定されているしね。そんなジタバタとして怪我を悪化させるわけにはいかないもの。
ちなみにあの後病院に行ったけど、私の怪我は軽度の捻挫だと判断され全治1週間程度で治るとの事だ。大きな怪我じゃなくて本当に良かったわ。
でもそんな私の怪我の事なんてどうでもいい。そんな事よりも今の私は凄く恥ずかしくて悶えまくっていた。
「う、うぅ……は、恥ずかしいよ……!」
悶えまくっている理由はもちろん放課後での山田とのやり取りだ。
何故か私は調子に乗ってしまいお姫様抱っこを山田に要求してしまったんだ。普段だったら絶対にそんなお願いなんてしないのに……!
「う、うぅ……顔もアツすぎるって……」
私は自分の顔を触りながらそんな事を呟いていった。それに心臓も思いっきりドキドキとしてしまっていた。
でももうこの感情は流石に鈍感な私でもわかるって……これはもう……そういう事よね……。
「どうしよう……あんな厚かましいお願いをしちゃって……嫌な気持ちとかさせちゃってないかな……」
山田は私の事をお姫様抱っこをしてくれた時、全然重くないしむしろ軽いと言ってくれた。それは本当に嬉しい言葉だった。
私は周りの友達と比べてもちょっと重いのは身体測定でわかってた。だから山田がそう言ってくれたのは本当に嬉しかった。でも……。
「どうしよう……汗臭いとか思われなかったかな……」
体重についてはまぁ置いておくとして……それよりも今は山田に私の身体が汗臭かったと思われてたらどうしようという不安で一杯だった。
だって最近はまた暑くなってきてるし、部活中だったから私はそれなりに汗もかいてたしさ……。
そしてそんな汗をかいた私の身体を抱っこしたって事はその……山田も私の汗を触っちゃっただろうし、もしかしたら匂いとかも嗅がれちゃったかもしれないよね……。
「うぅ……汗臭い女だなって思われてたら嫌だなぁ……」
という事で今の私は自分の足の怪我の痛みなんかよりも山田に変に思われちゃったかもしれないという不安の方で一杯だった。
―― ぴこんっ♪
「うぅ……って、あ、あれ?」
その時、ふいに私のスマホが鳴った。それはLIMEの通知音だ。
私は誰からだろうと思いながら早速スマホを開いていくと、それは山田からのLMEメッセージだった。
山田:良かったら今から通話とか出来る?
「……え?」
それはまさかの山田からの通話のお誘いだった。私はちょっとビックリしつつもすぐに返事を返していった。
早紀:うん、今からなら大丈夫だけど?
山田:そっか。わかった。それじゃあ今から通話お願い!
そんな山田からの連絡が届いたので、私はすぐに山田に電話を飛ばしていった。すると着信を鳴らすとすぐに山田との通話が始まった。
『あ、もしもーし。お疲れ様ー』
「あ、う、うん、お疲れ様……!」
今日の事もあって私はちょっとだけ山田の事を意識しながら通話を開始していった。
『それで今日はどうだった? 病院の診断は?』
「あ、あぁ、うん。えっと、まぁ軽い捻挫っていう診断だったわ。一週間もすれば治るってさ」
『あぁ、そうなんだ! うん、それなら良かったよ! 帰った後も佐々木さんの事が凄く心配だったから、軽傷で済んだのなら本当に良かったよ!』
「う、うん、本当に良かったわ。山田にも沢山迷惑かけちゃってごめんね……っていうか、そういえば山田ってどうしてあの時体育館にいたの?」
『あぁ、あの時は図書委員の仕事が終わって体育館の近くを歩いていたんだけど、その時に体育館の中から大きな声が聞こえたから慌てて体育館に向かったんだよ』
「あぁ、なるほどね。それじゃあ……山田が来てくれたのは結構運が良かったという事なのね」
『あはは、そうかもね。あ、でも、これからはちゃんとヤバイ事があったら俺を頼ってよ?』
「う、わ、わかったわよ。それじゃあこれからは色々と頼みこむからね?」
『うん、わかったよ! って、あ、そうだ。それとさ……明日からはお昼休みはどうしようか?』
「え? ……あっ」
ふいに山田は私に向かってそんな事を尋てきた。
今日の放課後の出来事ですっかりと忘れてしまっていたんだけど……そういえば私は今までずっと山田にお弁当を作ってあげてたんだっけ。
でも流石にこの足の怪我ではしばらくの間は料理をするのは無理だ……。
「あ……あぁ、えっと……しばらくの間はお弁当を作るのは厳しいわ。本当にごめんなさいね……」
という事で私は山田に誠心誠意を込めて謝っていった。
だって私は山田に毎日お昼ご飯を作ってあげると約束をしていたのに……それなのに私が怪我をしてお弁当が作れなくなるなんて山田に迷惑がかかるよね……。
『うん、そうだよね。うん、わかったよ。それじゃあさ……明日からは教室で一緒にお昼を食べる感じで良いかな?』
「……え? ど、どういう事よ?」
『え? だって流石に足を怪我してるんだからいつもみたいに屋上で二人きりでお昼を食べるなんて無理でしょ? だから怪我が治るまでは一緒に教室で食べる感じでも良いかなって思って尋ねてるんだけど……?』
「え……って、えっ!? で、でも私……怪我してるからしばらくの間は山田にお弁当なんて作れないわよ?? それなのに……これからも私と一緒に学校でお昼を食べるの??」
私はビックリしてそんな事を尋ねていってしまった。だって私達がいつも学校でお昼ご飯を一緒に食べている理由は私が山田にお弁当を作ってきてるからだ。
だからお弁当を作ってこれないのにこれからも一緒に学校でお昼を食べようと言われるなんて思ってもいなかった。
『え? うん、俺はそのつもりだったんだけど……もしかして佐々木さんは俺と一緒に学校でお昼を食べるのは嫌な感じ?』
「え……えっ!? い、いや嫌なわけないでしょ! で、でもその……いつも私達が学校で一緒にお昼を食べてるのって、私のお弁当ありきの関係だと思ってたから……だからその……これからも学校で一緒に食べるって言われたのがちょっとビックリとしたというか……」
『あはは、お弁当ありきの関係なんて、そんなわけないでしょ。だって俺達ってお弁当が無くても、いつも学校の楽しかった話とか部活の話とか家族の話とか色々な話をしながら盛り上がってる仲じゃん? だから俺はこれからも佐々木さんと一緒に楽しくワイワイと話しながらお昼休みを過ごしたいんだよ。だから良かったらさ……明日も一緒にお昼を食べようよ?』
「う、うん……わかったわよ。それじゃあ私もその……うん、これからも是非ともお願いしたいわ」
『うん、わかった! それじゃあ改めてこれからもよろしくね!』
「う、うん、こちらこそ!」
という事で私達はこれからも一緒にお昼休みを過ごすという約束をしていった。そしてその約束を交わした瞬間に私は何だか凄く嬉しい気持ちになっていった。
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