第41話:佐々木さんをお姫様抱っこしてあげる

 それから数分後に保健室の先生が帰ってきた。


 俺はすぐに保健室の先生に状況説明をして佐々木さんの足の診察をして貰った。すると佐々木さんの足は軽度の捻挫だと判断されて、そのまま足のテーピングを施していってくれた。


 だけど念のために病院でもちゃんと検査をして貰った方が良いと言われたので、このあとは佐々木さんの親御さんが車で学校にやって来てそのまま病院に向かうそうだ。


 という事で俺は佐々木さんの親御さんがやって来る前に一度教室に戻って、佐々木さんの荷物を一通り持って保健室に戻ってきた。女子バレー部の部室に置いてあった着替えについては保健室の先生が持ってきてくれた。


 そして今は佐々木さんの親御さんがやって来るまでの時間潰しという名目で、俺は佐々木さんの雑談相手としていつも通り他愛無い話をしながら過ごしていた。


 そしてそんな他愛無い話を続けてからしばらく経つと……。


「……あ、お母さんが車で校門前に迎えに来てくれたって」


 佐々木さんはスマホを見ながら俺に向かってそう言ってきた。どうやら佐々木さんの親御さんが学校の校門に到着した連絡がきたようだ。


「そっかそっか。それじゃあこの後は病院に行ってちゃんと検査を受けなよ」

「うん、わかってるわよ」


 俺の言葉を聞いて佐々木さんは静かに頷きながらスマホをポケットにしまいこんでいった。でもそれからすぐに佐々木さんは……。


「……ね、ねぇ、山田さ」

「うん? どうかしたの?」


 でもそれからすぐに佐々木さんはちょっと緊張しながら俺に声をかけてきた。何で今更俺に対して緊張してるんだろう?


「あ、あのさ……その、ちょっと前だけど山田は私にさ……その、いつでも頼っていいって言ってくれたよね?」

「え? あぁ、うん、確かに言ったけど……って、あっ! もしかして俺に何かして欲しい事とかあるのかな?」

「う、うん。え、えっと、その……ちょっと山田にお願いしたい事があるんだけどさ……」

「うん! もちろん出来る事なら何でもするよ! それじゃあどんなお願いかな??」


 俺は佐々木さんに満面の笑みを浮かべながらそう言っていった。どんなお願いかわからないけど、でも佐々木さんのお願いなら何でも引き受けるつもりだった。


 そして俺が満面の笑みを浮かべながらそう言っていくと、緊張気味だった佐々木さんは覚悟を決めたような目をして俺にこんなお願い事を言ってきた。


「え、えぇっと……そ、それじゃあその……私を校門まで運んでもらえないかしら……?」

「……え?」


 それが佐々木さんのお願いだった。


「え、えっと……頼みってそれだけ?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


 だって凄く緊張した様子だったから、もっと重大なお願い事をされるのかと思ってたので……なんだかちょっとだけ拍子抜けしてしまった。


「な、何よその反応は? も、もしかして駄目なの?」

「え、いや、そんなの全然お安い御用だけど……でもなんでそんなに緊張してるの? 別にそんなに緊張するようなお願い内容じゃないでしょ?」

「え……えっ!? えっと……そ、それはその……」

「うん? それは?」

「そ、それは……その……さ、さっきみたく……お、お姫様抱っこで運んでもらいたいなって……思って……」


 佐々木さんは顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。おんぶとかではなく、さっきみたいにお姫様抱っこで運んでいって欲しいというご所望のようだ。


「はは、なんだそんな事か」

「そ、そんな事って……! わ、私にとってはとても重大な事なのよ!」

「そ、そうなの? そ、それはその……笑ってごめんね」

「えっ? あ、い、いやこっちこそごめんなさい……って、いや別に私は山田に怒ったわけじゃなくて! そ、その、えっと……あ! お、おんぶとかだとちょっと何か怖いなーって思っちゃって……そ、それでそのさっきのお姫様抱っこで運んでもらえた方が安心するというかなんというか……そ、そういう事よ!」


 俺が謝ると佐々木さんは顔をぶんぶんと横に振りながらそんな説明を早口でしてきた。まぁ色々と言ってきてるけど要はつまりお姫様抱っこをされたいって事なんだろうな。


「うん、わかったよ。それじゃあ佐々木さんが不安にならないようにしっかりと運んでいってあげるね」

「ん……」


 俺はそう言って佐々木さんの前にゆっくりと屈んでいき、そのまま両手を広げて佐々木さんの背中と膝裏を支えるように触れていった。


「え、えぇっと……私はこの後はどうすれば……?」

「あぁ、佐々木さんは手を俺の肩にかけて……うん、そうそう。もっと抱きつくような感じでいいよ」

「えっ!? だ、抱きつく感じって……!? え、えっと、こんな感じで良いの……?」

「うん、それで大丈夫だよ! それじゃあこのまま立ち上がるからね……よっと!」

「わっ、わわっ!」


 俺が立ち上がると佐々木さんはビックリしたような声を上げた。 佐々木さんが俺の肩にかけている手の力も少し強くなった。


「あっと……大丈夫? もしかして怖かった?」

「えっ!? あ、いや、ううん……全然大丈夫よ! で、でも、アンタこそ……その……大丈夫なの? 私って多分他の女の子よりも体重は重い方だと思うんだけど……」


 佐々木さんは心配そうな表情をしながら俺にそんな事を言ってきた。


「うーん、他の女子を持ち上げた事なんて一度もないから比べようがないんだけど……でも佐々木さんって自分が言う程重くはないよ? 全然余裕で持ち上げられるから気にしなくて良いよ」

「う、嘘よ! だ、だって私……身体測定の時に友達と見せ合いっこをしたけど、やっぱり私の方が皆よりも重かったもん……」

「え、そうなの? うーん、でもそれって単純に佐々木さんのおっぱ……」

「え? おっぱ?」

「え……って、あっ!? い、いや、違う違う! 何でもないよ!」


 単純に佐々木さんのおっぱいが他の女子よりも大きいからその分が体重に反映されているだけな気がするって言ってしまいそうになってしまった。


 でもそんなのを本人に言ったら120%セクハラ発言になってしまうので、俺はギリギリの所で言うのを止めていった。危ない危ない、佐々木さんに変態だと思われる所だったよ……。


「え、えぇっと、まぁ佐々木さんは色々と思う事があるのかもしれないけど……でも俺は佐々木さんは全然軽いと思うよ! だから俺の事は心配しないでいいよ!」

「わ、わかったわよ。山田がそう言うのなら……うん、それを信じるわよ」

「それなら良かった。よし、それじゃあこのまま校門まで向かって行くね!」

「うん、お願いね」

「うん、それじゃあ……よっと」


 という事で俺は佐々木さんをお姫様抱っこしながら保健室を出ていき、そのまま校門に向かってゆっくりと廊下を歩いて行った。


 すると佐々木さんは興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡していっていた。


「凄いわね……ふふ、何だか本当にお姫様になった気分だわ」

「あはは、喜んでくれて何よりだよ。でも別にこんなことで良ければいつでもやってあげるからね?」

「え? ほ、本当に?」

「うん、もちろん。だって佐々木さんにはいつもお世話になってるからね。だから佐々木さんがまたお姫様抱っこをして欲しいって言うんならいつでもやってあげるよ」


 俺は笑いながらそう言って見せた。すると佐々木さんも同じように嬉しそうな笑顔を俺に向けてきた。


「そっか。うん、それじゃあ……またお願いしちゃうわよ? もう約束しちゃったから覆せないからね?」

「うん。もちろんだよ。だからさ……これからはもっとちゃんと俺の事を頼ってよ? 困った事があったら躊躇わずにいつでも俺に言っていいからね?」

「……うん、わかったわよ。今日は本当にありがとね。それじゃあこれからは……ううん、これからも頼りにさせて貰うわよ、山田……」


 佐々木さんは顔を真っ赤にしながらも、俺に向けてそう言ってとても嬉しそうに笑ってくれたのであった。

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