第40話:佐々木さんを保健室に連れて来る
それから数分後。
俺は佐々木さんを抱き抱えて保健室にやって来た。でも保健室には看護教諭は不在のようだった。
「あれ? 保健の先生はいないのかな? えぇっと……って、あ」
保健室の中を見渡してみると、ホワイトボードに「15分で戻ります」というメモ書きがされていた。なので多分すぐに戻って来てくれると思う。
「よし。それじゃあ一旦ベッドに降ろすよ」
「う、うん……わかったわ……」
という事で俺は抱きかかえていた佐々木さんを空いているベッドに降ろしていった。そして佐々木さんはベッドに腰掛けるようにして座っていった。
「佐々木さんは足首を捻っちゃったんだよね? それじゃあとりあえず、靴と靴下は脱いでおいた方がいいのかな?」
「え? あ、あぁ、うん、そうだよね。それじゃあ……」
俺がそう言っていくと佐々木さんは前かがみになりながら靴を脱いでいこうとした。でもその瞬間……。
「うぐっ!? っつう……」
「えっ!? だ、大丈夫?」
「あ、う、うん。大丈夫よ……。ちょっと前かがみになったら足首が動いちゃって少し痛かったみたいで。あ、でも、全然大丈夫だからアンタも心配なんてしなくて良――」
「佐々木さん」
「えっ……?」
佐々木さんは心配をかけないように大丈夫だと言ってきそうになってたので俺はその言葉を遮った。だって誰がどう見てもそれは大丈夫では無いのだから。
そしてそのまま俺は佐々木さんの前で膝をついてしゃがみこんでいった。すると佐々木さんはそんな俺の様子を見て不思議そうな顔をしていた。
「や、山田? ど、どうしたのよ……?」
「ほら、今は何も考えなくて良いからさ、とりあえずここに足乗せてよ」
「え……って、えぇっ!?」
俺はそう言いながら自分の膝を手でパンパンと叩いていった。ここに足を乗っけろと佐々木さんに向けてそう言った。
すると佐々木さんはそんな俺の行動を見て顔を赤くしながら慌ててこう言ってきた。
「い、いや、何言ってんのよ!? そ、その、アンタの膝の上に足を乗っけるなんてその……さっきまで私は部活をしてたから汗とか沢山かいてるし……き、汚いでしょ……」
「はは、別に遠慮しなくて良いよ。それに前にも言ったでしょ? 何かあったらその時はいつでも俺の事を頼れってさ」
「え……で、でも……」
「別に良いんだって。俺達は友達なんだからそんなの遠慮なんてしないでいいって。少しくらい甘えたって誰も何も言わないよ」
「うっ……わ、わかったわよ。そ、それじゃあ……はい」
佐々木さんはそう言って顔を真っ赤にしながらも俺の膝に足を乗せてくれた。
なので俺は佐々木さんの足首をなるべく動かさないようにしながらゆっくりと靴を脱がしていった。
「んっ……っ……」
「大丈夫? 次は靴下を脱がしていくよ?」
「ん……だ、大丈夫。うん、お、お願いするわね……」
という事で俺はそう伝えて佐々木さんのハイソックスをするすると脱がせていった。
俺はなるべく慎重に靴下を脱がせていったんだけど、それでも多少は足首が動いてしまったので、佐々木さんは凄く痛そうな顔をしていた。
(こ、これは……)
佐々木さんのハイソックスを脱がし終わると、くるぶし辺りが青あざになっていて若干腫れているようだ。
これは一目見ただけでもわかる。かなり痛いやつだよな……。
「え、えっと……」
俺は心配になって佐々木さんの顔を見ようとして顔を上げたら、その時偶然にも佐々木さんと目が合った。
すると佐々木さんは額に汗をかきつつも、いつも通り飄々とした態度を装いながら俺にこう言ってきた。
「だ、大丈夫よ。そんな目で私を見ないでも……私は全然大丈夫だから……というか本当はあまり痛くないし……」
「……いや、何言ってんの? 全然大丈夫じゃないでしょ?」
「……え?」
「いやだってさ、こんなの誰がどう見ても絶対に痛いでしょ。もしも俺が佐々木さんと同じ怪我をしたら絶対に痛いって絶対に言うよこれは。だからさ……本当は痛いんでしょ?」
「……そ、それは……」
本当は絶対に痛いはずなのに、佐々木さんは頑なに大丈夫だと言い続けてきた。
まぁでも佐々木さんとはそれなりの付き合いだからわかる。だって佐々木さんは……。
「はは、前々から思ってたけど、佐々木さんってさ……結構自分の事は後回しにしちゃうクセがあるよね? まぁそれは佐々木さんが凄く優しくて、困ってる人がいたら助けてあげようとする姉御肌な性格だからそうなんだろうけどさ」
「え? えっと……な、何を言ってんのよ……いきなり……」
俺がそう言うと途端に佐々木さんはビックリとしだした表情をしてきた。でも俺はそのまま佐々木さんに向かってこう言っていった。
「俺だって佐々木さんとはそこそこ付き合いが長いからさ……だから佐々木さんは誰よりも優しくて、人のために行動する凄いカッコ良い女の子だって事は知ってるよ? でもさ、別に今だけはそんな頼りになる優しくてカッコ良い女の子は演じなくても良いんじゃないかな? ほら、だって今この空間には俺しかいないわけだしさ」
「え……そ、それは……」
俺がそう言っていくと佐々木さんはちょっと狼狽え始めていった。
「それにもちろん、俺は佐々木さんが後輩から凄く慕われてて姉御肌みたいな感じになってるのも知ってるけど……でも俺はいつも佐々木さんの事は一人の普通な女の子として接してきたからね?」
「そ、それは……」
「だから今は別に良いんだよ。今くらいは素直な気持ちになってくれてもさ。だって今この保健室には俺と佐々木さんの二人しかいないんだし。それに俺はさ……別にカッコ良くなくて、姉御肌でもない、普通の女の子の佐々木さんでも、俺は変わらずこれからも一緒に仲良く過ごしていくつもりだからね!」
「や、山田……」
俺は佐々木さんの顔をしっかりと見ながらそう伝えていった。
すると佐々木さんはすぐに俯いて黙ってしまったが、でもしばらくしてから俺に向かって小さく口を開いてきた。
「……ぐすっ……ごめん……」
「……え?」
そうポツリと言い出すと、佐々木さんは次第に大粒の涙をポロポロと流し始めた。
「……ぐすっ……山田……ごめん、私……嘘ついた……本当は全然大丈夫じゃない……すっごい痛いよ……ひっぐ。それに……腫れてるのを見ちゃったら……なんだかどんどん怖くなってきて……ぐす……うぅ……」
「うん、そうだよね。痛いよね。それなのに今までずっと泣かずによく頑張ったね……佐々木さんはよく我慢したよ。もう少しで先生も戻ってくるから、あとちょっとの辛抱だよ」
―― ぽんぽん……。
「うん……ぐすっ……ありがとう……ひっぐ……」
佐々木さんがぽろぽろと大涙を溢すところを初めて俺は見た。
でも俺はそんな佐々木さんの姿に驚いたりはせずに、そのまましばらくの間佐々木さんの頭を優しく撫でてあげていった。
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