第39話:放課後に帰ろうと思ったら……
それから数時間後の放課後。
今日は図書委員の仕事があったので、俺は図書館にて一人で作業を行っていた。まぁいつも通り図書室は誰も人が来なくて凄く静かだった。
「これで良しと。今日の作業は全部終わったし、それじゃあ今日は帰るとするかなー」
図書委員の作業を無事に終えた俺は軽く背伸びをしてから図書室から出ていった。そしてそのまま廊下をノンビリと歩いていった。
「それにしても何だかまた暑さがぶり返してきてるよな。はぁ、今日も暑いなー」
俺は手でパタパタと仰ぎながらそんな事を呟いていった。季節的にはもう秋なのに最近はまた気温が暑くなってきてるんだ。今日もまた30度を越えてしまっている。
「うーん、これだと運動系の部活をしてる人達は色々と大変だろうな」
俺はそんな事を思いながら廊下を歩いて行った。そして下駄箱に到着した俺は靴を履き替えてグラウンドに出ていった。
「あ、そういえば……」
グラウンドに出たその時、俺は今日の休み時間に桜井さんと話した事を思い出していっていた。
―― ふふ、でもそれだけ仲が良いんだったらさ……良かったらバレー部の部活の応援とかもしてあげてよ。そしたら多分早紀すっごく喜ぶんじゃないかなー!
唐突に俺は桜井さんの言葉を思い出していった。ちなみにバレー部が部活をしている体育館はグラウンドのすぐ先にある。そして今日も佐々木さんはバレー部の部活に行っていたはずだ。という事は佐々木さんは今まさに体育館にいるわけで……。
「うーん、そりゃあ俺だって友達の応援はしたいけどなぁ……」
でも周りが全員女子だからちょっと恥ずかしさの方が勝つというかさ……。いやまぁ“女子バレー部”なんだから周りが女子しかいないってのは当たり前なんだけど。
だけど俺は恥ずかしい気持ちなんかよりも、佐々木さんに嫌な気持ちになって欲しくないという方が圧倒的に強かった。だってバレー部で頑張ってる姿を知り合いとかに見られたくないって思う可能性だって普通にあるもんな。
「うーん、まぁ桜井さんはああ言ってくれたけど、でもやっぱりいきなり行っちゃうと佐々木さんも困るかもしれないし……うん、そうだな! やっぱり佐々木さんにちゃんとお願いして許可を貰ってから行く事にしよう!」
まぁやっぱり俺としては友達の頑張ってる所は是非とも応援したいと思っている。だから友達である佐々木さんの事はしっかりと応援したいんだ。でも佐々木さんが知り合いに応援されるのが恥ずかしくて嫌だと思うようならやりたくはない。
なので俺は今度ちゃんと佐々木さんにバレー部の応援をしたいとお願いをしてみようと思っていった。それで佐々木さんに駄目だって言われたら素直に諦め……。
「「きゃああああああ!」」
「えっ!?」
そんな事を考えながらグラウンド周りをノンビリと歩いていたら、急に近くの体育館の中から女子達の悲鳴のような声が聞こえてきた。
「な、なんだいきなり……?」
流石にそれは緊急事態だと思ったので、俺は急いで体育館の中に向かって行った。
体育館の中に入って行くとそこには既に人だかりが出来ていた。そしてその中心には……なんと佐々木さんが仰向けで倒れていた。
「え……って、えっ!? さ、佐々木さん!? ど、どうしたの!?」
俺は急いで倒れ込んでいる佐々木さんの元に駆け寄った。すると佐々木さんは顔を歪めながら足を抑えていた。
「ひ、ひっぐ……早紀先輩……ごめんなさい……」
「え……?」
佐々木さんの近くに駆け寄っていくと、その隣では女子生徒が泣いていた。確かこの子は一年生の瀬川さんだ。どうやら瀬川さんが何か知っているようだ。
「えっと、何があったの? 良かったら教えてほしいんだけど……」
「ぐすっ……私のせいなんです……実は……」
瀬川さんに詳しく話を聞いてみると……どうやら今日の体育館はいつもよりも温度が高くて、瀬川さんは部活中に軽い熱中症を引き起こしてしまい、そのまま頭から地面に倒れ込みそうになってしまったらしい。
それで佐々木さんが倒れそうになっている瀬川さんにすぐに気が付いて急いで瀬川さんの元に全速力で駆け寄っていき、そのままスライディング気味に地面に倒れ込みながら瀬川さんの事を受け止めていってくれたらしい。
それで佐々木さんが全身を使ってしっかりとキャッチしたおかげで瀬川さんは事なきを得たんだけど、でも反面に佐々木さんが立ち上がる事が出来なくなってしまっていたらしい。
どうやら佐々木さんは慌てて全速力で走っていった反動と、変な体勢でスライディングをしてしまった事、さらに瀬川さんを抱きとめる際にも足にかなりの負荷を掛けてしまったせいで、佐々木さんは足首を思いっきりに捻ってしまったようだ……。
「なるほどね。まぁ何というか……はは、それは何とも佐々木さんらしいなぁ」
「……それって……褒めてるのかしらね……?」
瀬川さんから事の経緯を聞いて納得していると、佐々木さんは額に汗を浮かべながらジト目で睨みつけてきていた。やっぱり怪我をしても佐々木さんは普段と全然変わらないな。
「うん、褒めてる褒めてる。いつも通りカッコ良いなーって思ってね」
「……女子に対してカッコ良いって……あまり褒められてる気がしないんだけど……?」
「はは、確かにそうだね。うん、それは悪かったよ。ごめん。それで瀬川さんは大丈夫だったの? 瀬川さんも倒れそうになっちゃったんでしょ?」
「え? あ、は、はい……。むしろ私は助けて貰っちゃってからはもう目が冴えてきてしまったというか……」
「あぁ、なるほどね。もしかしたらビックリとして目が冴えちゃったのかもしれないね。でも熱中症だったら絶対にマズイと思うし、とりあえず水分補給とか身体を冷やしたりとかした方が良いよ。佐々木さんの事は俺の方で何とかするからさ」
「え、で、でも……ぐす……」
「……そんな泣かなくても大丈夫よ……ほら、私頑丈だから……全然大丈夫よ。そ、それに実はさ……ふふ、本当はそこまで痛くないし、だから少し休んでればすぐに治るわよ……」
「え……で、でも――」
「あはは、うんうん、流石佐々木さんだね! やっぱり身体が頑丈なのは佐々木さんの取り柄って感じだよねー! ……って、事でさ、ほら、佐々木さんもこう言ってるし大丈夫だよ。だから瀬川さんもまずはしっかりと水分補給をして休憩をしてきなよ」
「……は、はい、わかりました……それじゃあその……先輩、後はよろしくお願いします」
「うん、任してよ。それじゃあ、またね」
「はい、失礼します……」
そう言って俺は瀬川さんを見届けていった。そして俺はすぐに佐々木さんに向けてこう話しかけていった。
「さて、と……それじゃあ佐々木さんさ。本当に大丈夫なの?」
「え? な、何がよ? ふ、ふふ……大丈夫だって言ってるでしょ……?」
いやどう見てもそれは絶対に大丈夫じゃない。佐々木さんは思いっきりやせ我慢をしている。それなのに佐々木さんは額に大粒の汗を流しつつも俺に対して笑いながら大丈夫だと言ってきたんだ。
(まぁ佐々木さんが元々そういう性格の女の子だってのは知ってはいるけど……)
「……」
「……な、何よ? 急に黙っちゃって? ふ、ふふ……さっきから言ってるけど……ちょっと休めばすぐに良くなるわよ……だから、アンタも心配しないで大丈夫よ……」
佐々木さんの顔は苦痛で歪んているにも関わらず、それでも佐々木さんは俺に対しても大丈夫だと何度も言いながら無理して笑ってきた。
でも俺はそんな佐々木さんの笑っている顔を見ていたら……。
「……」
俺はそんな佐々木さんの笑っている顔を見ていたら……俺は生まれて初めて佐々木さんに対して怒りの感情がフツフツと湧いてきた。でも今はそんな事をとやかく言ってる場合ではない。
「佐々木さん、とりあえず今すぐ保健室に行くよ」
「えっ……? い、いや……だから大丈夫だって。少し休めば治ると思うし、だから山田も私の事なんか気にせずさっさと帰りなって――」
「そんなのいいから」
「え……?」
俺は佐々木さんの喋りを途中で遮っていった。そして俺はそのまま倒れている佐々木さんの前にゆっくりと屈んでいき、両手を広げて佐々木さんの背中と膝裏に手を添えていった。
「佐々木さん、今足回りを触ってるんだけど、ここら辺は痛くはない? 大丈夫?」
「え? う、うん……べ、別に痛くはないけど……」
「そっか、それなら良かった。それじゃあ……あとは佐々木さんの手を俺の肩にかけてくれないかな?」
「え? う、うん……こういう感じで良い……?」
「うんうん、それで大丈夫だよ。よし、それじゃあ……よいしょっと!」
俺は佐々木さんを抱きかかえるようにして一気に立ち上がっていった。それは俗に言う“お姫様抱っこ”と呼ばれる行為だった。
「え……って、う、うわっ……!? わわっ!?」
「あ、ごめん、佐々木さん。もしかしてやっぱり痛む感じかな?」
「えっ……!? あ、い、いや! そ、そうじゃなくてっ! え、えっと……その……き、気にしないでいいわよ……!」
「うん? まぁ大丈夫そうなら良かったよ。それじゃあ急いで保健室に向かうからね!」
「え……って、えっ? あ……う、うん……!」
という事で俺はそう言って佐々木さんをしっかりと抱きかかえながら急いで体育館から保健室へと向かっていった。
―――――――――
・あとがき
残り11話(本編10話+オマケ1話)で終わる予定となります。
9月上旬には完結出来ると思いますので、最後まで楽しく読んで頂ければ嬉しいです。
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