第6話

「あれ、佐々木さんじゃん」

「え?」


 俺が佐々木さんを見つけたのと同じくらいのタイミングで夏江もそう言ってきた。


「いや改めて思うけどさー、佐々木さんっておっぱい凄いよな。 何かグラビアアイドルとかに居そうな体型してるよなー」

「……どうする? 桜井さんに今の言葉をそっくりそのまま伝えようか??」

「えっ!? い、いやそれは止めてくれよ!!」


 俺がそういうと夏江は首をぶんぶんと横に振り回してきた。


「はは、冗談だよ。 別に桜井さんにチクったりしないから安心しろよ」

「ま、全くもう……ひやひやさせないでくれよ……」


 俺は笑いながら夏江の背中をぽんぽんと叩いた。 すると夏江はホッと安堵のため息をついてからまたグラウンドの方を眺めていった。


「うーん、それにしてもさぁ……俺らの代の女子って可愛い子多くないか? 佐々木さんもそうだけど、隣のクラスだと七種さんとか北上さんとかもめっちゃ可愛いよな」

「え? 彼女いるクセにもう浮気するつもりなのか? あぁ、これはやっぱり桜井さんにチクった方が良さそうだなぁ……」

「い、いやだから違うって! あくまでも一般的な話だよ! それに俺にとって一番可愛い女子は桜井さんなのは揺るがないし!! 桜井さん一筋だからな!」

「はは、わかったよ。 そんな惚気話しないでいいって」


 夏江は大きな声でそんな事を言ってきた。 まぁ夏江が桜井さんの事を本当に大好きなのが伝わってきたので、俺は素直に祝福する事にした。


「まぁ今更なのかもしれないけど彼女おめでとうな。 でも夏江に彼女がいるなんて羨ましすぎるけどな」

「はは、ありがとなー。 まぁ和樹も頑張って彼女作れよー!」

「う、うーん、頑張ってって言われてもなぁ……」


 そんな簡単に彼女が出来たら誰も苦労しないわけでさ……


「あれ、でもそういえば夏江は桜井さんとはどうやってお付き合いを始めたの?」

「え? えぇっと……まぁ、元々桜井さんとは一年の頃からちょくちょく話していたし、仲もそれなりに良かったからさ。 だから今月の初めに意を決して桜井さんに告白してみたんだよ。 そうしたらオッケーを貰えたから、そこから無事にお付き合いを始めたって感じだな」

「へぇ! 告白かぁ……やるな!」


 確かに言われてみれば一年の頃から夏江と桜井さんが話してる所はちょこちょこ見かけてた気もする。


「という事はお付き合いを始めて一週間くらいって所か?」

「あぁ、うん、そんくらいだな。 まだ桜井さんとお付き合いを始めたばかりだけどさ、もう毎日が最高に楽しいぜ? こんな感じでさ」


―― ひらひら


 夏江はそう言いながら、唐突にグラウンドの方に向けて手をひらひらと振り出した。


「うん? ……あぁ」


 俺は怪訝な表情をしながら夏江が手を振っている方向を見てみると……グラウンドでは桜井さんが夏江に向かって手をひらひらと振り返していた。 どうやらグラウンドの走り込みが終わったようで、女子部員たちは休憩をしている所のようだ。


―― ひらひら


 という事で桜井さんは可愛らしい笑みを浮かべながら夏江に向かって手をひらひらと振り返していた。 そんな二人の微笑ましいやり取りを見ていると……うん、やっぱりお似合いなカップルな気がするな。


「はは、めっちゃ仲良さそうで羨ましい限りだな。 これからも桜井さんを大切にしてあげろよ」

「あはは、そう言って貰えると俺も嬉しいよ。 あぁ、もちろんこれからもずっと幸せにしてみせるよ」


 そういう夏江の顔はとても幸せそうな顔だった。 うん、これからも末永く爆発しろよ。


 という事で今日の放課後はアツアツなカップルの様子を近くで見る一日となった。 すると、その時……


(……あっ)


 その時、偶然にも外にいる佐々木さんと目があった。 どうやら佐々木さんもグラウンドの走り込みが終わって休憩をしている所のようだった。 という事で俺も……


―― ひらひら


 という事でせっかく佐々木さんと目があったのだから、俺も夏江を見習って佐々木さんに手を振ってみた。 すると……


―― しっし……


 佐々木さんはジト目で“何見てんのよ”というような表情をしながら俺に向かって、しっしっと手で払うような仕草をしてきた。


(……はは、佐々木さんらしいなー)


 俺はその仕草が何となく佐々木さんらしいなと思って、内心ちょっとだけ笑ってしまった。

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