第4話

 それから数分後。


「ごちそうさまでした」


 黙々とご飯を食べていた佐々木さんもお弁当を食べ終えたようで、両手を合わせながらそう言っていた。


 という事で俺は改めて佐々木さんに感謝の言葉を伝えた。


「佐々木さん、今日は本当にありがとう。お弁当箱は洗って返すね」

「別にいいわよ、それくらい。美味しいって言って貰えてアタシも嬉しかったし」

「そ、そう?いやでも本当に凄いね!すっごく美味しかったし、それに彩りも良くて最高だったよ!これだけ美味しいご飯を作れるんだったらお店とか開けそうだよね」

「ふふ、そんなの無理に決まってるでしょ。私はただ趣味で料理をやってるだけなんだから」


 俺がそう言うと佐々木さんはぷいっとそっぽを向きながら横髪を手先で弄り始めていた。前々からその横髪を弄る癖を何度か見てるんだけど……もしかして照れ隠しでやってるのかな? それに何だか普通に可愛らしい癖だからついつい見ちゃうよな。


「あ、そういえばさ、佐々木さんは得意な料理とかはあるの?」

「得意な料理? うーん、和食は結構作る事が多いけど……でもやっぱりハンバーグが一番得意かもね。しょっちゅう作ってるし」

「へぇ、そうなんだね! 佐々木さんの作るハンバーグかぁ……うん、それもめっちゃ美味しそうだなぁ」


 佐々木さんにそう聞いた俺は頭の中で佐々木さんの作るハンバーグを想像していった。うーん、絶対に美味しいやつなんだろうなぁ。いやそれにしてもさ……


「でも和食とか色々な料理のレパートリーがあるのは凄いね。しかもこんなに美味しいご飯を作れるんだからさ、きっと佐々木さんは将来良い奥さんになるね!」

「なっ!? お、奥さん!?」

「え? あっ!」


 俺がそう言うと佐々木さんはまた真っ赤な顔になってしまった。いや先ほど結婚話をしたせいで、ついつい俺も口が滑ってしまった。


「ご、ごめん! って、いや、ごめんって謝るような事は言ってないんだけど……えぇっと……つまり! 佐々木さんのお弁当は美味しくて最高だった! って言いたかったんだ!」

「わ、わかった、わかったから! もうあまり連呼しないでって!」


 佐々木さんは深呼吸をして落ち着きを取り戻した。なので俺は改めてもう一度、佐々木さんにお礼を言った。


「いやでも今日は本当にありがとう! 佐々木さんのお弁当、すっごく美味しかったよ!」

「う、うん、そっか。それじゃあ……明日からもまた作ってあげようか?」

「えっ!? いいの!?」

「うわっ!? ちょ、ちょっと!!」


 俺は前のめりで佐々木さんに詰め寄った。そうしたら佐々木さんはビックリしてのけ反ってしまった。


「いきなりビックリするじゃないのっ! そ、そんな顔近づけないでよね!」

「あ、ご、ごめん。いやでもさ、また佐々木さんのお弁当が食べられると思ったらついつい興奮しちゃって……」

「こ、興奮ってアンタ……ふふ、でもそんなにアタシのお弁当が欲しいんだ?」


 佐々木さんはニヤニヤと笑いながらまた自分の髪を手先でくるくると弄っていた。


「そりゃあもちろん当たり前じゃん! 佐々木さんのお弁当がまた食べられるなんて最高でしょ!」

「あ、アンタさ……す、少しは照れたりしなさいよね。はぁ、まぁいいけど」


 そんな俺の様子を見て佐々木さんはため息をつきながら苦笑していた。でも何で急にお弁当をまた作ってくれるって言ってくれたんだろう?俺は率直に尋ねてみる事にした。


「でもさ、何で急に明日も作ってくれるって言ってくれたの?」

「何でって……そんなに嬉しそうな顔をして食べてくれるんだったら、アタシだって作ってあげてもいいかなって思っただけよ。それに……」

「それに?」

「私、料理するのは好きだからさ、誰かに食べて貰って感想とかを聞けるんだったらそれだけで十分価値はあるなって思ったのよ。だから明日も感想は聞くからね」

「えっ!? う、うん、わかったけど……でも佐々木さんも言ってたけどさ、俺語彙力全然無いけどいいの?」

「うん、別に問題ないわよ。何も詳しい感想を言えって言ってるわけじゃないからさ。しょっぱいとか苦いとか甘すぎるとか……そういう簡単な感想でいいから。もちろん美味しいと思ったならそう言ってくれればいいし」

「あぁ、なるほど。うん、わかった! それなら毎回佐々木さんにお弁当の感想を伝えるよ!」

「うん、お願いね。あ、あと! これからはお弁当作ってあげるけど……材料費はもちろん貰うわよ?」

「うん、それは当然払うよ! ってか佐々木さんのお弁当が食べられるんだったら幾らでも払わさせてもらうよ!」

「アンタはリアクションが一々オーバーなのよ。ふふ、まぁいいわ。それじゃあ明日も作ってあげるわ」

「うん、ありがとう! それじゃあ改めて……これからよろしくね!」

「うん、こちらこそ」


 こうして俺と佐々木さんとの交流の日々がここから始まった。

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