第3話
次の日のお昼休み。
「お待たせー」
「ん」
俺が屋上に到着すると、そこには既に佐々木さんが座っていた。そして昨日と同じく他には誰も人はいなかった。
そのまま俺は佐々木さんが座っている隣にちょこんと座ると、佐々木さんは俺に黒いお弁当箱を渡してきた。
「ほら、これ」
「あ、ありがとう! ほ、本当に作ってきてくれるなんて……」
「なんで嘘つかないといけないのよ」
「あはは、ごめんって。本当にありがとう! でも大変じゃなかった?」
「大丈夫だよ。ついでにもう1人分作るだけだし簡単だから気にしないで。はい、ここにお茶も置いとくよ」
「あ、お茶まで用意してあるの!? いや本当に何から何までありがとう!」
「ん」
俺は佐々木さんからお弁当とポットに入ったお茶を受け取り、早速そのお弁当の蓋を開けた。
―― ぱかっ
「うわぁ!!」
俺は目を輝かした。お弁当のオカズはミートボールに卵焼き、煮物にプチトマトが入ったサラダと、非常にカラフルに彩られたお弁当だった。一目見ただけでもとても美味しそうに思えた。
「そ、そんなに驚く程のお弁当じゃないでしょ」
「いやいや、そんな事ないって! 見た目だけでもめっちゃ美味しそうだよ! 早速頂きます!」
「ん、頂きます」
俺と佐々木さんは両手を合わせてから、お弁当を食べ始めた。
「旨っ! 旨いっ! これも、これも旨い!」
「ちょ、ちょっと! もう少し落ち着きなさいよ」
「ご、ごめん! でも本当に旨いよ!」
「そ、そう……」
始めは旨い旨い! と感想を言いながら食べていたのだけど、次第に俺は黙ってひたすらとお弁当を食べ進めていき……気が付いたらすぐにお弁当を食べ終えてしまった。
「あ……」
食べ終わってしまった事にショックを受けてしょんぼりとしてしまった。そしてそんな俺の顔を見て佐々木さんは笑っていた。普通に恥ずかしい。
「ご、ごちそうさまでした!」
「ん、お粗末様でした」
俺は両手に手を合わせながらそう言った。そうすると、佐々木さんはポットからお茶を注いで俺に渡してくれた。俺はそれのお礼も言ってからお茶を受け取って一息ついた。
「それにしても山田は美味しそうに食べるわね」
「え、なにそれめっちゃ恥ずかしいんだけど……」
「ふふ、別にいいじゃん。作ってる方からしたら、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいもんだよ。それで、どうだった? お弁当の味はさ?」
佐々木さんがお弁当の感想を聞いてきたので、俺は噓偽りの無い素直な感想を伝えた。
「そりゃもちろん、めっちゃ旨かった!! 本当に凄い美味しかったよ!! いやマジでありがとう佐々木さん!」
「はは、アンタさ、もうちょい語彙力増やせないの? まぁでも、そう言ってくれるのは嬉しいよ」
俺が素直な感想と感謝を伝えると、佐々木さんは嬉しそうにしながら横髪を指先で弄っていた。前にもやってたから多分佐々木さんのクセなんだと思うけど、嬉しそうな顔をしながら自分の髪を弄ってるその様子は何だかとても可愛らしく見えた。
「……って、あれ? よく見たら佐々木さん全然ご飯食べてないじゃん」
「え? あ、あぁ、えっと……」
「どうしたの? あ、もしかして体調悪いとか? 熱でもある?」
「え? あ、ちょ、ちょっと! 顔が近いって!」
俺はそう言って佐々木さんの顔に近づいていくと、佐々木さんは慌てて顔を反らしてきた。
「え? ほ、本当にどうしたの? やっぱり熱があるんじゃない? 顔もちょっと赤いしさ」
「い、いや違う違う! 赤くなんかなってないし、体調も悪くないわよ!」
「そ、そうなの? でも……それじゃあ何でお弁当食べてないの?」
「う……」
俺がそう言うと佐々木さんは若干戸惑っている様子だった。いつもはキッパリと言う性格の佐々木さんにしては何だか珍しい光景だ。
でも少しすると佐々木さんは小さな声で喋りだしてきた。
「……べてたから」
「え?」
「うぅ……」
聞き取れなくて俺が聞き直すと、佐々木さんは観念したのか声を上げた。
「だ、だから……! ア、アンタが美味しそうに食べてたから、それを見てたのよ!」
「えっ? そ、それじゃあ佐々木さんがご飯食べてなかったのって……俺をずっと見てたから?」
「そうよ! 私が作ったお弁当を美味しそうに食べてる奴の顔をずっと見てただけよ。それが何か悪いのよ?」
「い、いえ何も悪くないです」
「ふん、わかればいいのよ」
気が付けばいつも通りの佐々木さんに戻っていた。そして佐々木さんはパクパクと自分のお弁当を食べ始めた。
「……でもさ、山田は偉いよね」
「うん? 何の事?」
「食べる前に両手を合わして“いただきます”っていうのと、食べた後に“ごちそうさま”っていうの」
「え? そうかな?」
「ちゃんと感謝して食べるのは良い事だよ。アタシも結婚するなら、ちゃんとそう言ってくれる人のためにご飯を作ってあげたいなぁ……」
「えっ!? け、けっこん!?」
「……え? あ!? ち、違うから! 山田! 違うから!」
佐々木さんにお弁当を作ってもらったというシチュエーションで、そのワードは流石に破壊力が高すぎだ。みるみるうちに俺の顔は真っ赤になった。もちろん佐々木さんも顔は真っ赤になっていた。
「ち、ちがうから変に意識するんじゃない!」
「わ、わかった! わかったって佐々木さん!」
その後はお互いに一切何も言わず、佐々木さんは黙々とお弁当を食べ続けた。
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