第2話

「ほら、まだ半分くらい残ってるから。割り箸も余ってるし、ほら食べちゃいな」

「え!? ま、まじっすか!? で、でも悪いというか申し訳ないというかなんというか」

「なにが悪いよ、そんなヨダレ垂らしてこっち見てきてるクセに。これでアタシが何もしなかったら、こっちが悪い気になっちゃうじゃん。ほら」

「え? あ……」


 佐々木さんに指摘されて俺は気が付いた。俺はヨダレを垂らしながら佐々木さんのお弁当を見ていたらしい。


「い、いやでも、ほら! こ、これ、か、間接キ――」

「別にアタシは気にしないよ。部活後に部員で飲み物の回し飲みとかしょっちゅうやってるし。あ、まぁ……山田君が気にするってんならしょうがないけどさ」


 そう言いながら佐々木さんはニヤニヤと笑っていた。


「き、気にしてないし!」

「あ、そう? それなら早く食べちゃいなよ、ほら」

「わ、わかったよ。そ、その……あ、ありがとうございます」

「ん」


 俺は少し恥ずかしがりながらも、佐々木さんのお弁当と割り箸を受け取った。


「そ、それじゃあ……頂きます!」

「ん、どーぞ」


 俺は手を合わせてから、お弁当に入っていた豚の生姜焼きを一口食べた。


「旨っ!?」

「そう? それなら良かった」


 佐々木さんは少しだけ微笑みながら、そう一言だけ呟いた。それにしてもこれ旨いんだけど……!!


 という事で佐々木さんのお弁当はあまりにも旨すぎて、俺の食べるスピードは止まらなくなった。


「旨っ! これも旨い! 旨すぎる!」

「ちょ、ちょっと……そんなに連呼しないでも……」

「いやだってめっちゃ旨いんだもん!」

「い、いや、そうだとしても、そう何度も連呼しないでほしいんだけど……」


 佐々木さんは恥ずかしそうに自分の横髪を指先で弄くっていた。俺はその後も食べるスピードは一切落ちず、すぐに弁当を食べ終えてしまった。


「ごちそうさまでした!」

「はやっ!?」


 佐々木さんは驚愕した顔になった。 俺は手を合わせて感謝を伝えた。


「いや本当に美味しかったよ、本当にありがとう! こんな美味しいご飯を作れるなんて佐々木さんは凄いね!」

「す、凄いって……いや別にそこまで大した物は入ってないわよ」

「大した事ないってそんな事ないよ! めっちゃ美味しかったからね! 特に卵焼きがちょうど良い甘さ加減で凄い美味しかったよ! 本当にありがとう佐々木さん!」

「そ、そう?まぁそれだけ喜んで貰えたなら良かったわ、ふふ」


 佐々木さんに向けて俺は全力で感謝を伝えると、佐々木さんは優しく微笑んでくれた。


「え、ちなみになんだけどさ、佐々木さんは何歳くらいから料理始めたの?」

「まぁ小学生の頃からお母さんの手伝いはしてたわね。本格的に始めたのは中学2年の頃かな」

「へぇ、それくらいの時からもう料理を始めてたんだ! どうりでこんなに料理上手なわけだよね!

「い、いや、流石にほめ過ぎだから。こんなの誰だってやってれば出来るようになるわよ」

「いやいやそんなことは無いよ! あぁ……また食べたいなぁ……」

「え?」

「え? ……あっ!」


 “また食べたいなぁ” なんて図々しい事を俺は言ってしまっていたらしい。こんな事言うつもりは無かったのだけど、気が付いたらポロっと口から出てしまっていた。


「い、いや、な、なんていうかその! あまりにも美味しくてつい本音が出ちゃったというか、なんというか、その……!」

「ふぅん……そっか。それじゃあさ……良かったら、明日のお弁当作ってあげようか?」

「え!? ま、マジで……?」

「別にアタシはいつもお弁当作ってるし、1人分作るのも2人分を作るのも対して変わらないしね。 まぁそれに……」

「それに?」

「あんなに美味しそうに食べて貰えるんだったら、作ってあげてもいいかなって思っただけ。あ、で、でも、明日だけだからね!」


 佐々木さんは笑いながらそう言ってくれた。


「じゃあお願いしてもいいかな? また佐々木さんの弁当食べたいからさ!」

「うん、わかった。それじゃあ明日もまた屋上集合ってことで」

「了解!」


 佐々木さんと明日の約束を交わした所でちょうどお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 という事で今日はそこで佐々木さんとは別れた。

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