第3話・この恨み、九つまで
ねぇ、ご主人様
どうして浮いてるの?
また抱きしめて
また撫でてよ
「…晴人?晴人!!」
ご主人のお母さん、どうしたの?
ご主人はどうなってるの?
「と、とりあえず、救急車を…モモ、こっちにおいで」
ご主人のお母さんが、頭を優しく撫でてくれた
あれから何日か経った
ご主人は遠くへいってしまったらしい
もう二度と、モモのこと撫でてくれないのかな…
「信じられない…晴人が、く…首を……」
ご主人のお母さんが震えてる
すりすりしてあげよう、いつもこうすると喜んでくれる
「モモ…慰めてくれるの?ありがとう」
「どういたしまして」
ご主人のお母さん、ありがとうって言ってくれた
「ご主人のお母さん、元気出して」
「大丈夫よ、モモ。今日はどこにも行かないから」
ご主人のお母さんを元気にしたくて声をかけても、ご主人のお母さんにはモモの言葉が伝わらない
ピンポーンって、お家のチャイムが鳴った
「あら、誰かしら…?」
ご主人のお母さんがモモから離れる
「あら、千夏ちゃん」
「こ、こんにちは…おばさん」
ご主人のお母さんと、知らない人の声
「え、と…その、宇津木くんのこと、なんですけど…」
「ああ…」
ご主人のお母さん、悲しそう
「その、せめて、お別れを言いたくて…宇津木くん、今まで仲良くしてくれてて…」
「そうだったの、良いわよ。きっと晴人も喜ぶわ」
この人、なんだか怪しいわ
「あ…猫、飼ってるんですか?」
「ええ、晴人が産まれた時からずっと一緒なの。モモ、この子は千夏ちゃん。晴人のお友達よ」
仲良くしてねってご主人のお母さんが言う
ご主人のお母さんが言うなら仕方ない
「よろしく」
「すごい!返事した…可愛い」
当たり前じゃない、モモは賢いのよ
「ふふ、モモはとっても賢いの。きっと晴人が愛情を注いだからね」
「そう、なんですか…」
ちょっと、ジロジロ見るんじゃないわよ
「晴人の部屋は2階の突き当たりの部屋よ。モモ、案内してくれる?」
仕方ないわね、案内してあげる
「こっちよ」
「ここが、宇津木くんの部屋…?」
「そうよ」
ちゃんと案内したからね
「し、失礼します…」
ご主人のお友達がそっとご主人の部屋に入る
何故かチラチラとモモを見ている
「何よ」
ご主人の部屋に何かしたら許さないから
「多分…ここにあるはず…」
「ちょっとあんた!何してんのよ」
ご主人の机を荒らさないで
「…あった」
ご主人のお友達が引っ張り出した封筒とノート
封筒に書いてある「遺書」という文字
"モモ、この封筒とノートは、すごく、すごく大事な物なんだ"
"もし、母さん以外で持ち出そうとする人が居たら、止めてくれるか?"
「ダメっ!」
鞄に入っていったそれを見て、ご主人の言葉を思い出す
「痛っ…!」
思わず引っ掻いてしまったけど、仕方ない
守らなきゃ、ご主人と約束したから
それは、ご主人の大切なものなの
「だから、持っていかないで…」
「千夏ちゃん?どうしたの?」
ご主人のお母さんが入って来た
「い、いえ!何も…」
何も、じゃないでしょ
「あら、引っ掻かれてるじゃない!ごめんなさいね、千夏ちゃん。普段はこんなことする子じゃないんだけど…きっと、晴人が居なくなって寂しいのよ…」
「いえ…大丈夫です…」
ご主人の友達は逃げるように帰ってしまった
モモはご主人のお母さんに怒られてしまった
ご主人が言っていたことを伝えようとしても、モモの言葉はご主人のお母さんに伝わらない
「晴人がいなくて悲しいのは分かるけど、お友達に怪我をさせちゃダメよ。」
そう言って、ご主人のお母さんは部屋を出ていった
モモは、ご主人の言葉を思い出していた
"モモ、俺さ、学校で虐められてるんだ…って、猫のお前には虐めなんて言っても分からないか"
ご主人、モモ分かるよ、虐め、分かるよ
ご主人のお母さんには転んだって言ったあの傷
本当は、殴られたんじゃないの?
"俺が虐められてないと、ほかの誰かが虐められるからな。俺が我慢しないと!…あ、このこと、母さんには言うなよ?今まで女手一つで俺の事育ててくれたんだ。俺の都合で迷惑かけたくない、母さんを巻き込みたくないんだ”
そんな見栄張って強がって、誰かを守っちゃって
"モモ、心配してくれてるのか?お前は優しいな。"
優しいのはご主人でしょ
どうしようもないくらい、優しい
モモが守らなきゃ、モモが守りたかった
"なんで…なんで俺なんだ!!俺ばっかり、こんな…!"
机に向かって、泣いているご主人
いつも笑顔のご主人が、嗚咽を漏らして泣いていた
あぁ、そうか
だからご主人は遠くへ逝ったのか
生きてるの、辛くなったんだ
憎い、ご主人を追い詰めた
憎い、モモからご主人を奪った
憎い、ご主人のお母さんを悲しませた
ねぇ、モモからご主人を奪って、楽しかった?
楽しかったなら、モモも奪ってあげる
猫ってね、魂が九つあるんだよ
九回、奪えるね
ふふ、たのしみ
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