第317話 VS桐生5


 一回裏ツーアウトランナー無し。

 キャプテンと大鰐の初対決。この後には4番のドワイト君も控えてる。


 俺達も去年そうだったけど、1年がクリーンナップを打ってるってすげぇよな。龍宮は選手層が薄かったって理由もあるけど、桐生は名門も名門。レギュラー争いなんかも熾烈だろう。その中でクリーンナップを任される。先輩として少し誇らしいね。


 だが、対するはこの調子でいければドラ一指名はほぼ間違いない超高校級ピッチャー。今までの様に簡単に打てると思ってもらったら困りますぜ。それに、なんか今確変に入ってるっぽいし。


 そんな対決の初球。

 インハイへのストレート。中々強気なリードで、155キロを計測。大鰐はフルスイングの空振りだった。


 「やっぱりキャプテンはストレートを投げると首を傾げるな」


 「なんなんだろうね。普通に投げれてるから、怪我とかじゃなさそうなんだけど」


 金子とブルペンで軽く肩を作りながら話し合う。変化球は問題なさそうだが、ストレートは首を傾げる。


 最初はリミッターが外れてるとか、気にしてたけど、マウンド上を見る限り冷静で変な所は見当たらない。


 試合前に特級のフラグを建設してた事もあって、俺は結構気にしてるんだけど、本当に絶好調なだけかもしれない。


 2球目3球目はスライダーを投げてボール。ギリギリのコースはついてるけど、僅かに外れてる。大鰐は見極めれてるのか、手が出ないだけなのか。ここからじゃ、ちょっと判断出来ないな。


 4球目はインローにストレート。大鰐はこれをスイングしたものの、少し詰まり気味のファール。打席を外して何回か素振りして微調整してるように見える。


 そして5球目。

 アウトコース低めへチェンジアップ。

 大鰐はかなり体勢を崩されての空振り三振になった。ブルペンからでも分かるぐらいストレート狙いだったからなぁ。そりゃ、タイガにいいように遊ばれますよ。


 大鰐を空振り三振に仕留めてスリーアウトチェンジ。キャプテンは完璧と言っていい立ち上がりだ。


 俺と金子は一旦ブルペンからベンチに戻る。キャプテンの状態が気になるからね。


 「お疲れっす。どうしたんすか?」


 「いや、ストレートを投げる時の指先の感覚がね。良すぎてびっくりしてるんだ」


 二回表は8番の速水から。9番のキャプテンは打撃の準備をしながら、現状について話をしてくれる。


 「良い事なんですよね?」


 「うーん、多分ね」


 感覚が良すぎる。それは大抵良い事なんだけど、良くない事もある。この感覚がずっと継続するなら良いけど、何かの拍子になくなる事なんでザラにあるからね。


 で、なくなったらその感覚をまた追い求めようと、普段より力んだりして崩れる。頭ではすぐに戻ってこないと理解してても、体はどうしても一番良い時を求めちゃうからね。


 これが練習試合とか普通の練習時なら、その感覚を忘れないように、ゆっくり練習して感覚を馴染ませるとかも出来たかもしれないけど、今は公式戦で甲子園の決勝だ。


 色々試したりして舐めプなんて事は出来ない。


 「キャプテン、打席に入ってもバットは振らない方が良いっすよ。そういう感覚は衝撃とかでなくなったりもしますからね」


 俺もそういう経験は何度もある。今世でもあるし、前世ではデッドボールで感覚を失ったし。そして一生戻ってこなかった。キャプテンにはそういう経験はしてほしくない。


 「なんか、豹馬には言われたくないね」


 それはそう。当たらないと分かってるのに、常に無意味にフルスイングしてるからね。


 

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