第316話 VS桐生4


 2点を先制した初回の龍宮。


 長い長い攻撃が終わって、その裏の桐生の攻撃。


 マウンド上のキャプテンはかなり落ち着いてるように見える。泣いても笑っても龍宮で戦う最後の試合だ。


 悔いのないように、そしてドラ一アピールの為に頑張って欲しい。後ろは俺と金子に任せてくれ。ミズチはちょっとキツいかもだが。


 「おいおい」


 「すごーい!!」


 甲子園がどよめく。


 1番相手への初球。キャプテンが選択したのはストレート。ボールは高めに外れたが、156キロを計測した。キャプテンのこれまでのMAXは152キロ。


 なんと4キロも更新である。


 「え、大丈夫なのこれ?」


 「キャプテンもマウンドでびっくりしてるよ」


 投げた本人もえ? って感じの表情だ。1キロを更新するならまだしも、4キロである。そりゃびっくりするよね。


 でも大丈夫なんだろうか? 落ち着いてるように見えるけど、実はアドレナリンが出まくってるとか。体に変な負荷とか掛かってないといいんだけど。


 「豹馬、金子、一応ブルペン行っとけや。三井になんか異変があったらすぐ交代すんで」


 「いえっさー」


 「はい!」


 監督も万が一に備えて俺達をブルペンに向かわせる。流石に4キロはね…。リミッターが外れてると疑っても仕方ない。


 しかし、キャプテンは俺達の心配とは裏腹に、1番をセカンドゴロに打ち取る。ストレートは初球以外に投げず、スライダーとチェンジアップしか投げていない。


 そして2番相手への初球で、またストレートを投げた。球速は154キロ。アウトローにビシッと決まる素晴らしいボールだ。あそこに投げられたらプロも苦労するぞ。


 でもキャプテンはマウンド上で首を傾げている。良いボールだったけど、どこかしっくりきてないんだろうか? 本人的に何か違和感があったり?


 まあ、どこか体に異変があればキャプテンは自己申告してくれるはず。それがないって事は、感覚的な問題なんだろう。


 「おおー。すげー良いボール」


 2番相手にはスプリットで空振り三振を奪った。速度、落差、コース、どれも文句のつけようがないパーフェクトなボールだ。


 これにはキャプテンもうむうむと頷いてるっぽい。変化球は問題なくて、ストレートに何か違和感があるのかな?


 そして3番。

 高校一年で超名門のクリーンナップを勝ち取った俺達のシニアの後輩である大鰐。


 大阪の予選では6番を打ってて、甲子園も最初はそうだったのに、途中から3番になってる。かなりの大抜擢だろう。


 高校一年で既にゴリラの風格を兼ね備えているフィジカルモンスター。俺と甲子園の舞台で対戦したいからって、一番可能性がありそうな桐生に進学。その願いは実現間近である。しかし、それはキャプテンを打ち崩せたらの話だ。


 キャプテンは龍宮の立派なエースである。打ち崩すのは並大抵の事じゃないぞ。今日のキャプテンは、なんか神がかってるからな。


 大鰐の中では、俺はキャプテンより上と位置付けられてるみたいだけど、今日のキャプテンが期間限定の確変じゃなくて、常時引き出せる状態なんだったとしたら。


 俺が上なんて烏滸がましい事は言えなくなるだろうね。あの速度をコントロールして四隅に投げ分けられるなら、プロでも間違いなく通用するさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る