第313話 VS桐生1


 甲子園は満員御礼。

 春のセンバツと同じカードに観客は大盛り上がりだ。


 夏という季節はまだ続くけど、高校球児は今日で一区切り。一番長い夏に出来て良かった。後は最高の結果で終えるだけ。


 その為にもチーム一丸となって頑張らねばなるまい。


 「よーし! いくぜいくぜー! 先制点を取ってキャプテンを楽に投げさせてやろう!」


 「何度も言うが、パンにバッティングの事で云々言われたくない」


 「お前に言われなくても、最初からその気だってんだ」


 「パンは指を咥えて俺達が活躍するのを見てると良いよ」


 レオン、隼人、タイガからのお馴染みの口撃。もうなんか癖になってきちゃったね。これがないと始まらないぜ。


 さあ、チーム一丸になれるかは怪しいけど、頑張っていきましょーか。桐生のエース尾寺君に龍宮打線の怖さを思い出させてやれ。



 一回表は龍宮からの攻撃。

 先頭バッターは特攻隊長のウル。足に加速装置を付けてる疑いのある龍宮の韋駄天。


 今大会は打率もさることながら、目を見張るのはその出塁率。前回の苫小牧農業の松尾君には、いいようにやられてしまったが、今大会出塁率は4割を超えていて、球数を投げさせる事も出来る嫌らしい1番バッターに成長した。


 是非桐生の尾寺君にも嫌がらせをしてもらいたい。


 「それにしてもドワイトは体がごっついな」


 「整列の時も思ったけど、大きいというより、ごっついっていうのが似合うよね。日本人とは違うんだなぁって思うよ」


 ライトにいるドワイト君を見て、俺と金子ははわーってなる。俺も小学校低学年まではアメリカで過ごしてて、メジャーの選手を生で見た事があるけど、それと遜色ないんじゃないかってぐらい、体が出来上がってる。


 まだ15.6歳だし、あれでも未完成なんだろうが、ちょっと羨ましく思っちゃうよね。まあ、俺もかなり恵まれた体で生まれてきてるが。2mの左の変則サウスポーなんて、反則だって言われても仕方ないからね。


 「ナイスセーン!」


 そんな事を思ってたら、ウルがスリボールツーストライクから粘りに粘って、11球目を見送って四球で出塁した。


 ほんとにあいつは嫌なバッターだな。こんな暑い日の初回の先頭バッターにあんな事されたら、イライラはしなくてもストレスは溜まる。


 最後の一球はキャッチャーの方が明確にゾーンから外してたからね。これ以上無駄に付き合う方が、後に響くと判断したんだろう。


 ノーアウトでウルをランナーに出すのは結構な覚悟がいると思うけどね。


 「挑発するようにデカいリード取っちゃって」


 出塁したウルはファーストを守ってて、後輩でもある大鰐と、一言二言喋った後、通常のリードより2歩ぐらい大きいリードを取ってる。


 これは事前に尾寺がクイックや、牽制が上手くないって情報があっての事だけど。大鰐もウルのあからさまな挑発に苦笑いしてる。


 これで更にストレスを溜めて、ペースを乱してくれたら儲け物だ。イライラして牽制して、悪送球なんてのも美味しい。


 大事な初回のノーアウトのランナー。ここはなんとかモノにして先制点が欲しいところ。


 タイガ君。俺にあんな事言ったんだから、しっかりと結果を出してくれたまえよ。

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