第312話 決勝当日


 甲子園決勝当日。

 天候はウザいくらいに快晴。今日もかなり暑くなりそうだ。


 「調子はどうですか?」


 「うん。悪くないね。指先の感覚は過去一かもしれない」


 「それはそれは。期待出来ますね」


 「ドラ一がかかってるしね。これがほぼ最後のアピールの場所だ。全力で投げるよ」


 朝起きて軽く体を動かす。キャプテンとキャッチボールをしながら話をしてるけど、昨日も良く眠れたようで、コンディションは文句なしらしい。


 俺も自分の状態を確認してるけど悪くない。いつも通りって感じだ。いつも通りってのは大事だよ。俺的には絶好調とかより、いつも通りの方が安心するぐらいだ。


 まあ、それだけいつもの自分に自信を持ってるってのもあるが。ってか、今大会は予選を通じてそんなに回数を投げてないんだけど、なんか一段上のステージにいった気がするんだよね。


 感覚的な話だから上手く説明出来ないんだけど。いつも打たれる気はしないんだけど、最近はそれ以上に打たれる気がしない。というより、バットに当てられる気がしない。


 なんかそんな感じの感覚を得ている。あくまで感覚の話だし、これが一時的なゾーン的な何かか、永遠に続く状態なのかは分からないけど。


 一応この感覚は大事にしたいなと思ってます。そんなに実戦をこなしてないのに、なんでこの境地に至ったかは謎だけどね。甲子園って舞台がそうさせたのか、他に要因があるのか。まあ、悪い事じゃないから良いかなと。


 「本当に全力で投げるから。ペース配分も何も考えないよ。だから豹馬。後はお願いね」


 「なんですか、その戦地に行く人のフラグみたいなのは。勿論後は任されますけど、怪我とは駄目ですよ。キャプテンはこれから10年、20年と野球人生が続くんですから。一時のテンションに身を任せて将来を棒に振るのはやめてくださいね」


 「あははは。分かってるよ」


 「ほんとですか? この甲子園で燃え尽きても良いとか思ってませんよね? 水を差すようで申し訳ないですけど、やばいと思ったらすぐに監督に替えてもらいますから」


 「豹馬は心配性だなぁ。ほんとに分かってるから大丈夫だよ。野球はまだまだ続けてたいしね」


 「なら良いですけど。怪我して野球が出来ないってのは本当に辛いですからね」


 それは前世の俺が良く分かってる。割り切ったつもりだったけど、未練ありありだったみたいだしな。


 「………なんかキャプテン、怪我とか隠してます? 怪しいですよ」


 「本当に大丈夫だって」


 「フラグみたいな事を言われると心配になるんですよ。ちょっと後で母さんに診てもらいましょう」


 急にフラグを建設するから心配になってきた。精密検査とかはすぐ出来ないけど、母さんなら簡単な診断は出来る。


 マジで心配だからちょっと診てもらおう。何もないならないで良いんだし。





 「特に問題はなさそうよ」


 「ほら、だから言ったじゃん」


 「じゃあ素でフラグ建設に勤しんでたんですか…。まあ、何もなくて良かったです」


 結果、俺の杞憂でした。心配し過ぎだったか。俺もちょっと気を張ってたのかもしれんな。


 紛らしい事を言ったキャプテンにも責任はあると思うけど。あんなフラグな事を日常会話にぶっ込まないで下さい。


 ラノベ脳の俺はすぐに心配しちゃいますよ。

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