第308話 VS苫小牧農業3


 『さあ、序盤戦が終わって1-0。両校強力打線ばかりに注目していましたが、ここまでは投手戦を繰り広げています。特に甲子園初先発の松尾君はランナーを一人も許さない素晴らしいピッチングです。しかし、高校最強と謳われる龍宮打線も黙ってないでしょう。これからの展開に注目です』


 試合は四回裏まで進んだ。

 スコアは1-0と龍宮がリードされている。


 金子は二回に4番にツーベースを打たれた後、5番にセンターフライを打たれてタッチアップ。6番にレフトフライを打たれて犠牲フライで1点を失った。


 犠牲フライの時のレフトから大浦の物凄い返球は俺から見たらアウトっぽかったが、審判の判定はセーフ。リクエストなんてないので、これは仕方ない。本当に微妙だったし。


 で、龍宮打線は苫小牧農業の松尾君を打ちあぐねてる。とにかく決め球のフォークの落差が凄いんだ。


 大浦も三振してたからね。投げられるって分かってても手が出ちゃうらしい。途中までは打てる気がするんだと。


 ストレートもレオンが振り遅れるくらいだし、本当に良いピッチャーなんだと思う。なんで今まで無名だったんだ。


 「でも、苫小牧農業も肝が据わってますよね。本人に問題がない前提ですけど、松尾君をここまで温存してたって事でしょ? ここまで打ち勝ってきてますけど、使わずに龍宮にぶつけてきてますし」


 「スタミナに問題があるとかが一番ありえるよねぇ」


 俺はベンチでキャプテンと話しながら、ウルの打席を見守る。追い込まれたらフォークが来るからね。その前に打ってやろうって魂胆なんだけど、それを見透かしたように初球とかに投げてくる。リードをしてるのがどっちか分からないけど、中々強かである。


 因みに俺は一応アップもしている。金子は1点を取られたものの、その後はパーフェクトピッチングだし、ペース配分を考えないで力投してくれている。


 そろそろ俺もブルペンに向かおうかなと考えてるけど。


 「コントロールも良いんですよね。失投らしい失投はここまで無かったですし。あ、三振した」


 「凄いねぇ」


 ウルが高めのストレートに手が出て三振した。フォークを意識し過ぎたな。


 なんかここまで来ると感心が先に来る。今まで見た中で一番良いかもしれんな。あ、霊山がいるか。なんかもうあいつは別枠って感じだけど。


 2番のタイガは初球のスライダーを捉えるも、ショート正面。当たりは良かったけど、飛んだ場所が悪かった。流れも相手に味方してる気がするなぁ。


 しかし3番は我らが魔王。

 同じ相手に二回もやられる無様は見せないはず。


 初球。

 アウトコース低めのチェンジアップを見送りストライク。


 2球目。

 インハイへのストレート。これは真後ろのバックネットに飛んでファール。振り遅れる事はなくなったけど、まだ捉え切れてない。


 3球目はアウトコースのストレートが外れてボール。


 4球目もアウトコースにスライダーが外れてボール。


 そして5球目。

 真ん中からボールゾーンに落ちていくフォーク。レオンはこれをバットに当てた。


 しかし打球はボテボテのファーストゴロに。


 ファーストがしっかりキャッチしてベースを踏みスリーアウトチェンジである。


 「レオンが二打席連続凡退か。マジですげぇな」


 レオンも最初の打席から修正したんだろうけど、それでも相手のフォークの方が上だった。それだけ凄いボールなんだろう。


 まあ、焦ってないけどね。うちの打線なら絶対に取り返してくれる。俺は来る出番に備えてしっかりと準備させてもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る