第307話 VS苫小牧農業2


 「マジで良い球を投げてるな」


 一回裏。

 龍宮の攻撃はいつもどおり不動のリードオフマンであるウルから。初見のピッチャーだし、情報を引き出してくれよと思ってると、しっかり7球粘った。


 だが、7球目のチェンジアップに体を泳がされてファーストゴロに倒れる。


 「ストレート、スライダー、チェンジアップ。変化球はこの2種だけですかね?」


 「どうだろうね。もう一つぐらいありそうだけど」


 ストレートの球速は150キロオーバー。スライダーのキレは微妙だったけど、チェンジアップはブレーキの効いた良いボールだった。


 見れば見るほど良いピッチャーに見えるんだけど、なんでここまで出てこなかったのか。これに変化球がも1.2種あったら攻略に苦労しそうだぞ。怪我でもしてたのかね。


 2番のタイガはストレートに詰まらされて、レフトフライ。そして3番のレオンである。


 レオンの名前がコールされると、観客からはとめどない拍手が。既に今大会4本のホームランを打ってるからね。そりゃ、ここでも期待されてるでしょうしよ。


 実は桐生のシニアの後輩である大鰐が2本、ドワイトが3本と、あっちも騒がれてるんだけど。二人とも一年だし。怪物ルーキーとかなんとか言われてる。


 でも残念ながらうちの魔王様の方が人気的には上である。センバツでも大活躍してホームランを打ってたからね。フロックじゃないって分かってもらえた事だろう。


 気の早いところは龍宮と桐生の決勝を早くも煽ってる。超打撃戦が予想されるとか云々。俺達龍宮の投手陣の事を馬鹿にしてるのかと思ったね。そう簡単に打たれてたまるかってんだ。


 それはさておき。

 レオンの打席だ。


 現在カウントはツーボールツーストライク。

 あのレオンが初球のストレートに振り遅れてるのにはびっくりしたね。


 球速は154キロだった。確かに高校生にしては速いけど、それだけでレオンが振り遅れるとは思えない。実際より速く見えたりするのかな?


 「なんか俺達の時より気合いを入れて投げてる気がする」


 「ふむ?」


 タイガが防具をつけながら、レオンと苫小牧農業のピッチャーである松尾君を見ながら言う。


 「舐められてるって事?」


 「さあ? ペース配分的な問題かもしれないし。まあ、いい気はしないけど」


 タイガ君はちょっとご立腹ですよ。でも、君は詰まってレフトフライに倒れた訳で。結果的には相手の勝ち。次の打席で見返しましょうね。


 まあ、俺は打撃の事は何も言えないけどさ。


 ツーボールツーストライクからファールを一球挟んでの6球目。


 「うおっ。すげぇ落差」


 レオンは空振り三振に倒れた。恐らく松尾君が投げたのはフォーク。ベンチから見ても凄い落差だった。どこぞのお化けフォークみたいだったぜ。


 「レオンがバットに当てられないってすげぇな」


 「良い投手なのは間違いないね」


 やっぱりなんで、こんな良い投手が今まで出てこなかったのか謎だ。相手のチームメイトの雰囲気とか見た感じは普通に仲良くやってそうだけど。


 これはそれなりに点が取れる試合だと思ってたけど、もしかしたら投手戦になるかもしれんなぁ。


 

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