第306話 VS苫小牧農業1


 「俺達は龍宮を応援してんでー!」


 「頑張れよー!!」


 「三波ー!」


 準決勝当日。


 甲子園は満員で暑苦しい。

 もうすぐ夏の甲子園も終わる。観客のボルテージも上がるってもんよ。


 で、俺達が球場入りして練習してると、観客から暖かい声援が。ありがとうございます。頑張りますね。暑苦しいとか言ってごめんなさい。


 そしてプレイボール。

 いつものようにやかましいサイレンが鳴って試合スタートだ。


 「ずっと思ってたんだけど、このサイレンってなんなんだろうね?」


 「頑張れーって甲子園球場が応援してくれてるんですよ」


 「じゃあ試合終わりは?」


 「お疲れ様。頑張ったね。です」


 知らんけど。なんか当たり前過ぎて気にした事ないや。キャプテンはなるほどーって頷いてるけど、まさか信じたとかないよね?


 適当に言ってるだけですよ? ちょっとキャプテンに天然が入ってるかもしれん。試合前のシートノックの開始と終了の時にも鳴ってるでしょうに。


 それはさておき、試合だ。


 一回表は苫小牧農業の攻撃から。

 先発の金子はやる気充分って感じで、マウンドに上がってる。


 今日は継投する予定だからね。初っ端からペース配分を考えずに飛ばして来いって言ってある。カーブマスターのカーブでキリキリ舞いにしちゃってくだせぇ。


 「相変わらずあのカーブは凄いね」


 「そうっすね。フォームが一緒なのが凄いと思います」


 金子とタイガのバッテリーが初球に選んだのはスローカーブ。チェンジアップならまだしも、スローカーブをストレートや他の球種と同じフォームで投げれるのは本当に凄いと思う。


 バッターからしたらたまったもんじゃないだろ。90キロのスローカーブと140キロのストレートが同じように投げられるんだ。俺だったら脳みそがバグるね。


 あ、俺はバグってなくても打てないや。


 なんて事を思ってると、金子は先頭バッターをセカンドゴロに。4球続けてカーブである。カーブはカーブでも色んな種類のカーブを投げてたけど。なんかカーブがゲシュタルト崩壊しそう。


 続く2番バッターにもカーブを3球投げて、最後にツーシームでサードゴロ。


 3番には逆にストレートで押して最後にナックルカーブで三振を奪って、一回表を三者凡退でしっかり抑えた。


 「ナイスピッチ」


 「調子良いな」


 「ありがとうございます」


 キャプテンが紙コップに入ったスポドリを。俺がタオルを渡して金子を出迎える。


 今日は滅茶苦茶暑いからね。36℃ってなんだよ。体温かよ。こんな中で野球をやるなんて一種の虐待では?


 そんな事を思いながら楽しそうにやってる俺達は罪深いよね。


 「さあさあ! 金子が楽に投げる為にも先制点をお願いしますよ!」


 「打てない奴は黙ってろ」


 「お前に言われるとイラッとくるんだよ」


 俺がベンチで声を出すと、レオンと隼人に怒られた。今日も龍宮ベンチはあったかいぜ。平常運転でなによりだ。


 「なんだ、あのピッチャー」


 「今日が甲子園初登板みたいだよ。というより、試合に出るのも初めてだね」


 苫小牧農業の先発は背番号18番。選手名鑑を見るに三年生らしいけど、初めてみるピッチャーだ。


 「なんか良い球投げてません?」


 「速いねー」


 投球練習を見るに、いつもの苫小牧農業の全員継投みたいな感じじゃなくて、本格的なピッチャーなんだけど。


 まさかのここにきて隠し玉? それとも何か訳あって、ここまで出れてなかったとか? 


 あんなに良い球を投げて三年生で背番号18番って事は訳ありかなぁ? 素行不良とか。


 俺達が言うなって話なんだけど。

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