第298話 VS正徳4


 3番からも三振を奪って12者連続。

 物凄い拍手を送られて俺は四回表のマウンドを降りた。


 「出来すぎでは?」


 「良かった。自覚があったんだね」


 ベンチに戻って水をごきゅごきゅ。

 一息ついてから、タイガと話し合う。


 12者連続三振。滅茶苦茶嬉しいし、目立つ事間違いなしの偉業を成し遂げたと思ってる。でも正直、ここまで出来すぎな結果になるとは思ってなかった。


 ビビってるとかじゃないけど、何か良くない事の前触れなんじゃないかって、気になってしまう。


 「外から見て俺に変な所とかない? テンション上がり過ぎて、怪我とかしそうなんだけど」


 「いつも通り、調子に乗りまくってる天狗の豹馬だよ」


 ベンチの金子に聞いてみるけど、特に変わった事はないみたいだ。一言多いのが気になるけど、そこはご愛嬌ってもんだろう。


 「あ、この回は俺に打席が回ってくるのか」


 「ぶつけられないようにねー」


 これ。滅多な事を言うでない。そんなスポーツマンシップに反するような事を、高校野球でやる訳ないだろう。メジャーじゃあるまいし。


 メジャーですら、記録を継続中の人には気を使ったりするんだぞ? 完全試合やノーノーをやってる時はセーフティバントはしちゃダメとかな。


 四回裏のツーアウトで俺に打席が回ってきた。因みに、第一打席は送りバント。観客からは何故か残念な声が聞こえてきましたね。


 今回はツーアウトランナーなしという事で、バントはない。観客が期待してる事は分かるぞ。俺に無様な三振でも求めてるんだろう。


 一生懸命頑張ってる高校球児になんたる所業だと思わなくもないが、俺自体が気にしてないなら良いだろう。他の子の時は笑ったらダメよ?


 で、しっかり三振してスリーアウトチェンジ。アウトコースのストレートを狙ってたけど、全球変化球でバットに当たる気がしませんでした。


 しかも正徳のエース左腕はドラフト候補の選手。俺が打てる訳ないじゃんね。


 そして五回表。

 正徳は円陣を組んで気合い充分といった様子。流石にこれ以上俺に調子に乗らせる訳にはいかないんだろう。去年の優勝校のプライドもあるだろうし。


 先頭バッターは4番。

 一回戦でホームランも打ってた強打者だ。


 『さあ、ここまで全てのアウトを三振で奪ってる三波君の五回表のマウンド。威風堂々といった様子でバッターと対峙します。果たしてどこまで記録を伸ばす事が出来るのか。そして正徳高校は三波君を攻略し、反撃の狼煙を上げる事が出来るのか』


 前の回の2番と違って、肩に力が入り過ぎてる訳でもなく自然体で構えている。

 流石名門校の4番だな。


 初球。

 右打者の膝下にナックルカーブ。

 バッターはフルスイングしたものの、三塁線に転がるファール。


 2球目は高めにストレートが外れてボール。

 なんでもかんでもぶんぶん振り回してくるんじゃなくて、しっかり見極めてる様子。


 3球目。

 アウトコースに高速チェンジアップで見逃したものの判定はストライク。


 4球目。

 アウトコースにボールからストライクになるスイーパーを投げるも、これもファール。

 決め球としてツーシームをずっと投げてたから、裏をかけるかと思ったけど、しっかりファールで逃げられてしまった。


 5球目。

 インハイにストレート。


 「ああ…」


 バッターはスイングして、フラフラとサードの頭上に上がった。しっかりフェアゾーンに上がってしまっている。


 レオンが難なく捕球してアウト。

 先頭バッターをしっかりアウトにしたものの、記録が途切れてしまった。


 「まあ、ここまでが出来すぎだったんだ。27者連続三振は次の試合に持ち越しだ」


 いつかやってみたいけどね。

 きっと伝説になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る