第297話 VS正徳3


 『さあ、甲子園が響めく中、三波君が四回表のマウンドに向かいます。試合開始当初とは違い、異様な雰囲気に囲まれている中でどんなピッチングを見せてくれるのか。また最多タイ記録に並ぶのか、要注目です』



 俺はとても良い気持ちで異様な雰囲気を漂わせている甲子園のマウンドに上がる。タイガはちょっぴり引いてたけど、気にしないね。


 四回表。スコアは2-0で龍宮がリード。初回のレオンと隼人のタイムリーからスコアは動いていない。


 で、なんでこんな雰囲気になっているのか。


 それはここまで俺が三振でしかアウトを奪ってないからだ。初回から打者一巡全員三振。ちょっと自分でも出来すぎだなと思ってるところです。


 いや、最近力を入れてるツーシームがキレキレなんだよね。自分の思った通りに動いてくれるというか。相変わらずスピードはもう少し欲しいなって思うけど、それでもここまでは大満足な結果である。


 確か夏の甲子園の連続三振記録は10だったはず。ここまで影が薄かった俺だけど、記録に並ぶ、もしくは記録を塗り替えたりすれば、一気にチヤホヤされるだろう。


 キャプテンや金子に負けてたまるかってんだ。


 『三振!! 10者連続!! 三波君が記録に並びました! 最後はツーシーム! バットが空を切りました!! これで記録タイ! 新しい記録を打ち立てる事が出来るのか!』


 テンションは上がりまくってるけど、記録を意識し過ぎて、いつものピッチングが出来なくなるのはいけない。落ち着いてしっかり先頭の1番をツーシームで三振を奪った。


 そして2番。

 マウンドから見てもバッターの肩に力が入りまくってるのが分かる。まあ、ここで三振しようものなら、かなり長い間擦られる事になるからな。


 チヤホヤされる俺は良いけど、三振する側のバッターはたまったもんじゃないだろう。意地でもバットに当てようとしてくるはず。プライドを捨ててバントをしてこないのは、凄いと思うけど。


 いや、バントした方が後々叩かれたりするかもしれんな。


 初球。

 ど真ん中にスローボールを投げる。

 これ以上ない絶好球だろう。しかし、バッターの体は金縛りにあったかのように動かない。そして見逃してストライク。バッターは呆然としている。


 まさかこの局面でそんなボールが来るとは思ってなかったんだろう。まあ、だから投げたんだが。タイガからサインが出てニヤけるのを我慢するのに苦労したぜ。あいつも中々性格が悪い奴だ。


 2球目。

 高めのストレート。

 ボール球だったが、バッターはさっきのスローボールが頭にチラついていたのか、手を出してきて空振り。完璧にタイガに心理を読まれて遊ばれてやがる。


 3球目。

 ここまで決め球のほとんどはツーシーム。

 バッターも当然狙いたいだろう。だがここまで良いようにやられている。ツーシームが来るかどうか、かなり悩んでるんじゃなかろうか。


 そして俺とタイガが選んだのは、やっぱりツーシーム。右打者のアウトコースに投げて、最後はバットから逃げて落ちていくようにして空振り。


 11者連続三振。恐らく記録更新である。


 『や、やりました! 大胆不敵な投球術!!三波君が11者連続三振!! 新記録を樹立しました!』


 

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