第288話 VS薔薇巻西4


 試合は四回裏まで進んで8-0。

 大浦のツーランに、隼人、清水先輩、一二三少年の三連続ツーベースなどで4点を追加した。


 一二三少年は甲子園初ヒットが長打でタイムリーになったな。で、次の速水も内野安打を打ったので、こちらも甲子園初ヒット。


 既存の戦力と一年生の新戦力も噛み合って、龍宮打線は大爆発だ。


 そしてキャプテンはというと、ポテンヒットを一本打たれたものの、ここまでヒット一本、三振五つのナイスピッチング。


 今は四回裏のワンアウトで、打席には薬師君が入っていて、今日二度目の対決の真っ最中だ。


 「蛟原、剛元、王子。三人共準備しとけよ。もうちょいしたらお前達の出番も作るで」


 「「「はい」」」


 ミズチはちょこちょことさっきから肩を作り始めてる。大量点差があって、甲子園の空気に慣れさせる絶好のチャンスだからな。


 ちなみに俺はまだ一度もベンチから出ていない。日陰でやいやいと野次を飛ばしてるだけだ。


 「おっ」


 「キャプテン絶好調だね」


 ベンチが準備で慌ただしく動いていると、キャプテンが薬師君からストレートで三振を奪っていた。プロ注目の相手にこれ以上ないアピールだな。


 「薬師君は力み過ぎて空回りしてるように見えるな」


 「ベンチからでも力が入ってるのが丸分かりだもんね」


 今も三振して呆然としながら、ベンチにすごすごと戻って行っている。なんかメンタル的に大丈夫なのかなって、敵ながら心配になる。


 結果出すことを意識し過ぎてるんじゃないかな。


 「野球は楽しくやらないと」


 「それは才能がある豹馬だから言える事だよ」


 金子に注意されちゃいました。

 まあ、その通りだなと思うけど。


 俺だってこんな恵まれた体格と才能、環境が無けりゃ、楽しくやりましょうなんて言えないか。


 高校通算90本も打ってたら、周りからの期待も凄いだろうし、余計に力が入ってるんだろうなぁ。


 周りの人間は無責任で自分勝手だから。

 勝手に期待して勝手に落胆する。高校生ぐらいの年代には酷な所業でしょうよ。


 俺みたいにプレッシャーをなんとも思わない人間なんて一握りだけだ。これがプロの世界なら、それが仕事なんだし言い訳は出来ないけどさ。


 「まあ、それとどう向き合うかも大事ってこったな」


 薬師君はプロを目指してるんだろうか?

 目指してるなら、期待にどうやって応えていくか、不調の時の割り切り方も学んでいかないといけない。


 薔薇巻西はプロを何人も輩出してるし、そういうアドバイスが出来る人がいたりしないのかな? 自分だけで答えを見つけろってのは可哀想ですよ。


 まあ、今日は薬師君が不調っていうより、キャプテンの調子が良すぎるのもある。


 ここで何くそと奮起出来るのか、心が折れるのか。ここで折れてるようじゃ、どの道プロに行っても早い段階で挫折するんじゃないかなって思う。


 薬師君にとってはこれからも野球を続けていくなら大きなターニングポイントになるかもしれないな。


 

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