第287話 VS薔薇巻西3
一回裏。
幸先良く4点を先制した龍宮高校。
開会式後の一回戦って事で、観客の皆さんは大盛り上がりだ。
ここでバシッと三凡に抑えて、流れを完璧に持って来たいところ。
「まあ、日本人は判官贔屓だからな。あんまり有利になりすぎると、薔薇巻西寄りになっちゃうかもしれないが」
「あり得ない話ではないよね」
特にどっちの高校にも興味が無かったら負けてる方を応援したくなるのはなんなのかね。日本人の性なのか、人間の性なのか。
それはさておき先頭バッター。
キャプテンは少し緊張してるのか、ボール先行ではあったものの、最終的に三振。
2番をファーストフライに打ち取った。
そして3番。
プロ注目高校通算90本の薬師君との対戦。
「雰囲気はあるな」
太ってる訳ではないずっしりとした体型。
強靭な足腰が長打力を支えてるんだろう。
左打席に入ってキャプテンを睨みつけている。レオンを気にしてるみたいだったけど、流石に打席に入るとそうはならないか。
はてさて、一体どうなるかな。
☆★☆★☆★
龍宮高校エースの三井。
今年の春の甲子園で一気にブレイクして、一躍ドラフト候補に上がった超高校級のピッチャー。
龍宮と初戦で当たるとなってから、いや、それ以前から龍宮の事は意識して研究していた。
高校No.1打線と言われるとてつもない破壊力を持ったクリーンナップ。
実際この試合でも早速その力を遺憾なく発揮して、先制点を取られた。
投手陣もエースの三井はもちろん、レジェンドの息子三波、技巧派の金子と隙がない。
そして浅見。
こいつが出て来てからは、巷では俺と比べられる事が増えた。甲子園で当たり前の様にホームランを打ち、今日の試合でも既に1本打っている。
しかもプロを見据えてるのか木製バットでである。
逆に俺は地方や練習試合ではホームランを量産してるものの、甲子園では未だに0本。
口さがない連中は、俺の事を雑魚専バッターや、レベルの高い投手からは打てないとか好き放題に言う。
ふざけるな。
勝手に期待して勝手に落胆して、それを隠しもせずに俺に押し付ける。
外野の声は気にしないようにしてたが、どうしても耳に入れば意識してしまう。
いつしか俺の目標は甲子園優勝やプロ野球選手から、浅見や龍宮バッターより良い成績を残すという事に変わっていた。
浅見は既に第一打席でホームランを打っている。当然俺も狙わないといけない。
そうする事で薬師という人間の存在証明が出来る。俺は絶対浅見には負けない。
初球。
チェンジアップを豪快に空振り。
2球目。
またもやチェンジアップを空振り。
3球目。
チェンジアップを空振り…。
チェンジアップで三球三振。
どうやら俺が力み過ぎてるのを理解していたのか、完全に空回りしてしまった。
「くそっ!」
「わっ!」
俺が打席で雄叫びを上げると龍宮のキャッチャーはびっくりした声を上げていた。
「不適切な発言は慎むように」
「すみません」
審判にも注意された。
龍宮キャッチャーにも目礼をして謝っておく。気にしてないのか、笑顔で応えてくれたが、その余裕が羨ましく恨めしい。
切り替えないとな。
次の打席こそ結果を…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます