第289話 夏の甲子園初勝利


 「センター!」


 九回裏ツーアウト。

 最後のバッターがセンターにフライを打ち上げる。ウルに代わって入った控えの先輩がガッチリ掴んでゲームセット。


 13-1で龍宮高校の勝利だ。


 「初戦突破だな」


 「ああ」


 途中で交代したレオンと共に整列に向かう。こいつは四打数三安打二ホーマーの大活躍である。羨ましい。



 「礼!!」


 「ありがとうございました!!」


 整列時の薬師君は思い詰めた様な表情をしていた。向こうから話し掛けてくるならまだしも、こちらから声を掛ける事はない。ただの侮辱にしかならないしね。



 龍宮高校の校歌斉唱。

 ティッシュが散らかる学校〜♪

 河童のプライド尊重〜♪ つって。


 校歌斉唱が終わったらさっさと退散。

 ちょっと試合が長くなり過ぎて、次の試合時間が押してるんだよね。


 「しょっぱい甲子園デビュー戦になりました」


 「そりゃど真ん中に投げればそうなるよ」


 快勝ムードの龍宮の中でドヨンとしてるのはミズチ。


 打線は絶好調だった。

 交代で入った控えの選手や、一年の剛元やプリンスもしっかり爪痕は残した。


 でも七回から登板したミズチは、緊張してたのか最初はストライクが全然入らなかった。そこでスリーボールノーストライクからど真ん中に投げたボールをパコンと柵越えされた訳だ。


 そこからも二連続四球と制球が定まらない。伝令を送ってからはなんとか持ち直して、その後を0に抑えたものの、自分だけ乗り切れてないって気持ちがあるんだろう。


 「なんで緊張したんだよ。大舞台には慣れてるだろ?」


 「甲子園は別格ですよ。あんなに大勢の観客の前で投げたのも初めてですし」


 「観客なんて全員ナスビだと思えって言っただろ?」


 「ジャガイモじゃなかったですか?」


 「そうだっけ? まあ、なんでも良いんだよ。観客は自分を引き立ててくれるものとでも思っておけば良いんだ。野次を飛ばされても気にするな。言わせておけば良いんだよ。批判する奴はそれしか出来ないんだから。甲子園に出てる俺達の方が凄いに決まってる」


 「俺はそんな割り切り方出来ないですよ」


 「やれやれ。次の試合で先輩の背中というものを見せてやろう」


 「豹馬くぅん…」


 その目はやめろ。この前東海大の弾呉四男とテレビ電話した時もそんな感じだったんだぞ。なんで俺を慕ってくれる後輩はこんなのばっかりなんだ。


 「次の試合の先発は金子やぞ」


 「え?」


 監督から無慈悲な一言。そんな馬鹿な。ミズチに調子乗ってカッコいい事言ったばかりなんですけど?


 「豹馬は三回戦の予定や。三回戦に上がってくるであろう正徳を任せる予定や。強い相手の方が嬉しいやろ? まあ、その前に次の試合に勝たなあかんけど」


 「そ、そういうことなら…」


 もちろん強い相手の方が嬉しい。

 そこをねじ伏せた時の反響が違うからね。

 バシッと抑えてレオンよりチヤホヤされたい。


 愛知の正徳高校。

 去年の夏の甲子園の優勝校だ。

 相手にとって不足なしってもんよ。


 ミズチ、すまんが先輩の背中は三回戦までお預けだ。二回戦の金子の勇姿を見てやってくれ。あいつも中々出来る奴なんです。


 そろそろカーブマスターの名前を全国区にしても良いと思うんだ。

 

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