第279話 試合後


 「豹馬」


 「霊山」


 甲子園出場が決まって、球場の外でうぇいうぇいやってると、目をぱんぱんに腫らした霊山がやって来た。

 本当にこいつはフットワークが軽いな。


 「負けてもーたわ」


 「紙一重だったけどな」


 俺はチームの輪から抜けて、少し離れた場所で霊山と話をする。最初はお互い無言だったけど、ポツポツと霊山が喋り始めた。


 「正直勝てると思ってたんや。僕が0点に抑えて、1点を取る。龍宮の打線を0に抑える自信はあったんや」


 「実際レオンの一発がなかったら危なかったな」


 レオンがレオンしたからギリギリ勝てたけど、それが無かったらどうなってた事やら。

 キャプテンが0行進を続けてくれたのも大きかったな。


 「はぁ。甲子園行きたかったなぁ」


 高校球児の夢だもんね。

 甲子園に行けるなら怪我しても構わない、そこで野球人生が終わっても良いって奴は大勢いるだろう。


 俺は怪我してまでも行きたいとは思わないが、少しはその気持ちは分からんでもない。

 あの場所は特別なんだろうね。その神格化が良いのか悪いのか、俺には分からんが。


 「負けたら承知せぇへんで」


 「ふははは。俺達が負ける所を想像出来るか? 俺が投げてレオンが打つ。キャプテンが投げて大浦が打つ。金子が投げて隼人が打つ。しっかり優勝旗を東京に持ち帰ってくるさ」


 どうやら霊山は激励に来てくれたらしい。

 負けたばっかりなのに、良い奴かよ。

 俺が逆の立場ならおんなじ事は出来ないだろうね。これだからムカつく奴なのに憎めないんだよな。


 「大阪の知り合いに聞いたんやけど、今年の桐生はやばいらしいで。今年入学した外国人がおるんやけど、そいつが規格外らしいわ。それと豹馬の後輩も一年でレギュラーになっとるみたいやし」


 「あーみたいだな。ニュースでちょこちょこ見るけど、中々に面白そうだ」


 「そこで面白いって言えるのが豹馬らしいわな」


 外国人なぁ。いや、国籍は一応日本らしいけど、中々のフィジカルモンスターらしい。

 フィジカルモンスターに日本の技術が兼ね備わったと思うと、楽しみで仕方ないよね。


 メジャーとかはフィジカルモンスターはいっぱいいるけど、技術はお粗末な人が多いし。

 日本で育ったら小さくまとまりそうなもんだけど、中々どうして悪くないらしい。


 「まっ、霊山は俺達の活躍をテレビで指を咥えて見てたら良いさ。もう一回完全試合でもしてくるかな」


 「うるさいわ。明日から猛練習やっちゅうねん。秋に絶対リベンジしたるからな」


 「またレオンにやられないようにな」


 「ふぐっ」


 わはははは。

 レオンマウント最強。

 虎の威を借る狐とはこの事よ。


 「あの第二打席のボール球をぶっ飛ばしたのが布石だったらしいぞ。あれで、三高バッテリーの意識は低め低めになるだろうってな。霊山のアンダースローのストレートは高めなら脅威だけど、低めはその驚異も半減。それなら第一打席に三振を奪ったチェンジアップを投げてくるだろうってな」


 「うぅ。僕もおかしいと思ったんや。あんなにあっさりレオンがボール球に手を出してくるやなんて。でもセンターの最深部まで持っていったやろ? だからレオンも緊張して力んだんやなと思ったんや」


 「魔王が駆け引きをしてきたらもう手が付けられんわな」


 「ほんまそれやで」

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