第270話 当日


 「やかましく起床!」


 アラームの音が聞こえて、朝から元気良く起きる。シュバっと起き上がって、顔を洗って柔軟を開始する。


 「体調は完璧。テンションは絶好調。天候は快晴。素晴らしい野球日和だ」


 軽い柔軟の後にリビングに行って朝ご飯を食べる。母さん特製のカツサンドを頬張って、さっさと学校に向かう。


 「ぐっもーにん!」


 「朝からそのテンションはしんどいよ」


 部室に行くと既に結構な人数が揃っていた。時刻はまだ朝の7時にもなってないんだけど。早めに来たつもりが出遅れたか。


 「いや、寮に泊まってる人も居るしね」


 「なるほど。俺もそうしたら良かったです」


 まあ、家から学校は近いからどっちでも良いけど。


 「キャプテン、調子はどうですか?」


 「緊張で寝れないと思ったけど、すぐに寝れたお陰で調子は良いと思うよ」


 キャプテンと軽くキャッチボールしながらお話しする。体調も問題なさそうでなにより。今日も良い試合になりそうだぜ。


 そうこうしてるうちに続々と野球部のメンバーが揃う。各々軽く体を動かして、いざ戦場へ。


 「まだ日が完全に昇ってないのに暑いな。もう汗かいちゃったよ」


 「ちゃんとアンダーの替えとか持ってきた?」


 「ばっちり。半袖と長袖三枚ずつ持ってきた」


 「先発じゃないからそこまではいらないと思うんだけど」


 備えあれば憂いなしですよ。

 昨日準備してると、なんかワクワクしてきちゃって、テンションのままに行動したとは否めませんけど。

 修学旅行とか遠足の前日の気分だった。



 神宮球場にバスが到着。

 まだ試合二時間前ぐらいだけど、既に観客さんっぽいのが外で待機してる。

 高校野球ガチ勢の人達かな? いつも応援ありがとうございます。


 「周りの人に迷惑にならんようになー。お前らはただでさえ目立つんやから、常に誰かに見られてると思って行動せぇよー」


 まだ球場には入らず、外で軽いアップを開始する。パシャパシャと写真を撮られてる気がするなぁ。


 監督の言う通り俺達は目立つから。

 言動やら容姿やら、世間一般の高校球児に相応しい感じじゃないからね。

 ルールは違反してないし、自分達の理想像を押し付けるなって思うけど。そんなの今更だしね。



 「豹馬ー! 見つけたでー!」


 「げっ」


 邪魔にならないように体を動かしてると、聞きたくない関西弁が聞こえてきた。


 「お前、なんでここに居るんだよ」


 「いや、ちょっと話しよかなおもて。監督の了承はもらっとるで」


 こいつのこのメンタルすげぇよな。

 これから戦う敵チームの場所に普通に来れるんだから。


 俺も野球関連ではそれなりのメンタルを持ってると自負してるけど、こんなアウェイに突っ込むのはちょっと嫌だな。人見知りだし。


 「豹馬は先発じゃないんやな」


 「キャプテンが去年のリベンジに燃えてるからな。ピッチャー返しとかやめろよ」


 「あほ。それはほんまにシャレにならんやつやで」


 既にメンバー表は交換してある。

 だから俺が先発じゃない事は、霊山も知ってる。


 去年、ピッチャー返しでキャプテンの足が折れた事を言ってやったんだが、霊山にガチめに注意された。ごめんね。こっちは気にしてないよって事を伝えたかったんだけど。


 「豹馬と去年ぶつかった先輩も気にしとるからな。うちではその話題は触れんようにしてるんや」


 「あー砥川さんか。あれは普通に俺の方が悪かったしな。こちらこそごめんなさいって感じなんだけど」


 避け方が悪かった。

 俺は逆方向に避けないといけなかったんだよね。それなのに、砥川さんが結構叩かれちゃって。申し訳ない事をしたと思ってる。


 でも今では三高のクリーンナップを担ってる要注意人物だ。しっかりとマークさせてもらってますぜ。


 「どっちが勝っても恨みっこなしやで」


 「当たり前だ。レオンに打たれて泣くなよ? 慰めてあげないからな?」


 「今日こそレオンは完璧に抑えたるわい!」


 その後もちょろっとお話をして別れた。

 調子良さそうだったなぁ。やっぱり一筋縄でいかなそうだ。


 それでも勝って甲子園に行くのは俺達だけどね。

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