第264話 試合後
「会心の当たりじゃん」
タイガが四球で出塁して、レオンの打席の初球。インコースのスライダーを完璧に捉えて、打球はライトスタンド中段へ。
レオンがツーランホームラン。
試合を決定付けるような値千金の一発だ。
「俺がパンの劣化版に打ち取られる訳ないだろう」
ダイヤモンドを一周して帰ってきたレオンをうぇいうぇいと祝福してると、なんか滅茶苦茶カッコいい事を言ってた。
危うく惚れそうになったぜ。浅見家の血筋は恐ろしいな。俺の心をこうも簡単に揺さぶってくるとは。
その後金子が東海大打線に一点を取られるも、試合は6-3で龍宮が勝利した。
九回ツーアウトまでランナーすら出さずに完璧なピッチングをしてたのにな。油断して4番の弾呉長男に一発を浴びた。
勿体無い事したねぇ。金子もちょっとしょんぼりしてらっしゃる。
しかしこれで龍宮高校はベスト4に進出。
前回の夏の大会のところまできたぞ。
去年はアクシデントはあったけど、三高に負けた。今年こそは夏の甲子園に行きたいね。
「完敗だ」
「いやいや恐ろしい打線だったよ」
試合後バスをボケーっと待ってたら、東海大の面々がやって来た。東海大もバス待ちらしい。
みんな目が赤くて泣いたんだろうなーとか気まずいなーって思ってたら、弾呉長男がキャプテンに話し掛けた。
俺は俺で物凄くねっとりした視線を弾呉四男に向けられてちょっぴり困ってる。
何かしましたっけ?
「ミズチと同じ匂いがするね」
「それだ」
隣に居たタイガに言われて分かった。
そういえば昔のミズチはこんなんだった。俺がやめろって言ってからは、表向きは普通に装ってるけど。
なるほど。俺にそっくりな投球フォームにこの視線とくると、答えは一つ。
弾呉四男の四季君は俺のファンなんだな。
「ほら、何か言ってあげなよ」
「そう言われましても」
俺は基本的に受け身な人間であるからして。仲良くなったらグイグイいけるんだけど、ちょっと初対面の人とかはね?
そう思ってたのにタイガがグイグイと俺の手を引っ張っていく。
「三波豹馬です」
「だ、弾呉四季ですっ!」
目の前に連れて行かれたら挨拶せねばなるまい。とりあえず自己紹介をしてみたものの、これからどうすれば。
こういう事するならあらかじめ言っておいてもらわないと。会話デッキを構築するのにも時間が掛かるんだよ?
「俺は三波さんフォームを真似してまして--」
さて、とりあえず伝家の宝刀、天気デッキを使うかと思ったけど、四季君は凄かった。
永遠に喋り続けてくれる。俺は適当に相槌を打ってるだけで良い。
「いや、それならもう少し腕を下げた方が良い」
「でもちょっと窮屈なんですよ」
「俺は窮屈ぐらいが丁度良いんだけどな。人によるから強制はしないけど、帰ったら試してみて」
なんかあれよあれよと技術交換のお話にまで発展してた。恐るべきコミュ力。
気付けばノリノリでアドバイスしちゃってた。
褒めらると良い気分になっちゃうからね。
仕方ない仕方ない。
この四季君はよいしょがお上手である。
その後はバスが来たので連絡先を交換してその日は解散。
ミズチ二号が出来たって感じだな。
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