第260話 VS東海大3


 「容赦ねぇな」


 「あれはウルも疲れてると思うけどな」


 現在ウルはフルカウントで粘って12球目。

 ひたすらファールで粘っている。カットしてる風に見せてないのがポイントだ。

 カット狙いみたいな打ち方じゃなくて、ちゃんと打ちに行ってる雰囲気を出している。


 これはウルにも結構負担が掛かる。毎回それなりにちゃんとスイングしないといけないから。それでも今回はやってもらわないといけない。


 弾呉三兄弟の東海大打線は強力だ。

 いくらキャプテンが良いピッチャーとはいえ、何点か取られる可能性がある。

 野球は取られた以上に点を取らないと勝てない訳で。


 早めにエースを擦り潰そうと考えた訳だ。

 まぁ、ウルも毎回これをやれる訳じゃないし、投手との相性にもよる。

 でも今回は幸い、やれる投手だった。


 俺がシニアの頃から、なんなら小学生の頃からバッピとして付き合ってきたんだ。

 あいつは真剣にカットに専念すれば、俺から最高で28球粘った事がある。

 勿論最後は俺の勝ちね。意地のでも負けたくなかったけど、あれは地獄だった。


 「明らかなボール球も打ってファールにしてんだよな。可哀想に」


 「多分ウルから逃げようと思ったら…。そう、ああするしかない」


 捕手の弾呉長男が立ち上がる。

 そして完璧に外してウルは四球で出塁した。投手は屈辱だろうな。いいぞ、もっとやれ。隼人が珍しく同情するぐらいの鬼畜な所業。かなりフラストレーションが溜まってるだろうな。


 「で、タイガは初球攻撃」


 「相手が安易にストライクを取りに来るのは分かってたからな」


 あのウルの作戦はシニアでもやった事がある。初回の先頭で粘りまくって出塁。

 で、敵は球数を投げさせようとしてるんだなと勘違いする。いや、球数を投げさせるのも作戦だけど、それはともかく。


 なら早い事カウントを取りに行こうと、安易にストライクゾーンに投げてきた球を次の打者が狙い打ちする訳だ。


 タイガが打った打球は左中間を真っ二つに破っていく。打った瞬間スタートを切っていたウルは、俊足を飛ばしてあっという間にホームに帰ってきた。


 「うぇーい!!」


 「うぇ、うぇーい…。はぁはぁ」


 帰って来たウルを迎えたんだけど、流石にお疲れの様子。13球粘ってヒーヒー言ってたところに、いきなりベースランニングさせられた訳だからな。

 良く頑張りました。君のお陰で欲しかった先制点をゲットです。


 「さーて。先制パンチは大成功だぞ」


 そしてまだノーアウトでランナーは二塁。

 ここから龍宮が誇る最凶クリーンナップの登場だ。


 弾呉三兄弟のクリーンナップは強力だけど、龍宮の方が上だと自信を持って言える。


 はてさて、向こうは慌ててるかな?

 それなら嬉しいんだけど。早めに四男も準備させておかないと、うちの狂犬達がエースを食い荒らしちゃいますよ。


 ほんとこの打線と敵対する高校生活じゃなくて良かったや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る