第256話 覗き見


 「バスターでも当たらんか。俺の望みは完全に絶たれたな。送りバントとセーフティバントに命を懸けるぜ」


 昨日チラッと掲示板を覗いたんだけどね。なんか俺のバッティングについて好き放題言ってたからさ。

 むかちーんときて、バスターなら当ててやんよと気合いを入れてマシンで、バッティング練習してたんだけど、やっぱり当たりませんでした。


 バントは相変わらずお上手。それならばと、掲示板にも書かれてたセーフティバントに活路を見出した訳だ。

 まぁ、毎回やってたら警戒されるだろうから、ここぞというときにね。

 相手をアッと驚かせてやろうと思いまして。


 ちょこっとバントの練習をしてからブルペンへ。鼻歌を歌いながら、ルンルンで室内練習場に入ろうと思ったら、手前で誰かに手を引かれた。


 なんだと思ったら金子とミズチがドアの隙間から中を見ていて、俺に人差し指を立ててしーっってしてる。

 静かにしつつ中を覗いてみると、キャプテンと輝夜さんがマンツーマンで練習していた。


 キャプテンは顔を真っ赤にしながら話を聞いてるけど、輝夜さんはそれに気付いた様子はない。身振り手振り、時にはボディタッチも含めて何か熱心に教えている。

 キャプテンは真面目だから大丈夫だろうけど、頭に話が入ってるのか心配になる。


 キャッチャーとしてプリンスが居るけど空気だ。あいつは俺達が覗き見してるのに気付いてるようで、しきりにこっちに救援要請を送っている。


 すまんな、プリンス。なんか面白そうだからこのまま続行してくれ。練習自体は真面目にやってるみたいだし、多分大丈夫だろう。


 「キャプテンって意外に女耐性がないですよね」


 「お前が女慣れし過ぎてるんだ。あれが世間一般的に普通な男子生徒の反応だと思うぞ」


 コソコソと覗きながら話をする。

 ミズチは女癖が悪いで評判だから。結構頻繁に彼女が変わってる。付き合う女みんながヤバい奴なのか、それともミズチの性格が悪いのか。


 俺とか他の野球部員には普通に接してると思うんだけど、女の前では違うミズチが見れるんだろうか。同期の面倒見とかも良いしあんまり想像出来ないんだけど。


 「金子はそういう浮ついた話はないの?」


 「うーん…。どうなんだろう。最近仲良くさせてもらってる子は居るんだけど…」


 ほう。それは知らなかった。誰だろう? 俺が知ってる子かな? 


 「チア部の子だよ」


 「あ、一年の時に同じクラスだった?」


 「そうそう」


 へー。あくまで俺のイメージだけど、性格がきつそうな人って感じなんだけど。

 そんな事ないのかな? 金子の好みとか全然知らないからアレだけど。


 「あ、密着指導が終わった」


 金子と喋ってると、輝夜さんが離れた。

 キャプテンが残念そうにしてるように見えるのは気のせいだろうか。あれって逆の立場ならセクハラだよなぁ。


 最近ではその逆パターンも問題になったりしてるけど。キャプテンは気にしてなさそうってか、むしろご褒美に思ってそうなので、今回の事例は問題無しという事で。



 その後も少し様子を見たけど、再び密着指導になりそうになかったので、素知らぬ顔をして三人で室内練習場に入る。


 キャプテン、もう卒業ですぜ?

 アタックするなら急がないと、あっという間に時期を逃しちゃうぞ。

 モタモタしてた俺が言える事じゃないけどさ。

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