第251話 VS八王学園3


 「ストレートが動いてる様な気がする」


 セカンドライナーに倒れたレオンが、淡々と説明する。選球眼が良いレオンでも確信には至らないか。

 レオンは気のせいレベルなら力で持って行けると思ったみたいで、打ったみたいだけど、打球が上がらなかったと。


 まぁ、あれで打球が上がってたら長打になってたわな。気のせいレベルなら龍宮打撃陣はなんとかしてくれるでしょう。

 俺ちゃんは点を取ってくれるまで、しっかり0に抑えますぜ。点を取ってもらってからも、打たれる気はありませんが。



 そんなこんなで四回裏まできた。

 スコアは0-0。俺はランナー一人も出してない完璧なピッチング。害悪審判のせいで球数は60球ぐらいいってしまってるが。


 打つ方ではランナーは出すものの、あと一本が出ない感じ。ストレートが微妙に動いてるのと、その他変化球で粘られている。

 俺も打席に立ったけど、あんまり違いが分からなかった。一打席目は送りバントでした。


 この回の先頭バッターは隼人から。

 そろそろ先制点が欲しいし、なんとかチャンスを作ってほしいところだな。



 ☆★☆★☆★


 「ふぅ」


 マウンドに上がった俺は一息つく。まだ四回裏なのにもう一試合を投げ終わったような疲労感だ。


 ここまではなんとか0に抑えれた。疑惑の判定に助けられつつだが、この前から試しに投げ始めたストレートの調子が良い。


 俺も理由は分からないが、上手く指に掛かった感触があると、ボールが動くらしいのだ。龍宮がそれのせいで抑えれているのかは分からないが、とりあえず良しとしている。


 早く先制点を取って欲しいという気持ちは勿論あるが、あの三波から点を取るのは簡単な事じゃない。初回は審判の判定がおかしいせいで戸惑ってる感じだったが、二回からは丁寧なピッチングで三振と凡打の山を量産している。


 あそこまで自分の思い通りに投げれたら楽しいだろうなと思う。もう嫉妬を通り越して尊敬の域だ。プロに行く奴ってのはみんなあんな感じなんだろうか。


 そんな事を思いながら岸田相手への初球。

 ランナーの居ない岸田はそこまで怖いバッターじゃない。最近は打ってるみたいだけど、1打席目も抑えれた。そう思って気が緩んでたのがいけなかったのか。


 カーブをに捉えられて左中間を破るツーベース。コースは悪く無かったんだが、上手く掬い上げられた。


 続く6番の清水にもカーブを掬われた。

 センターの深いところまで持っていかれ、アウトには出来たものの、岸田は三塁へ向かい、ワンアウト三塁。


 ここで伝来がやって来た。


 「スクイズ警戒。一年だからって舐めるなよとの事だ」


 「去年舐めて痛い目にあってるんだ。何年だろうが容赦はしない」


 「岸田には油断してただろ?」


 「うっ」


 それを言われると困る。確かに気が緩んでいた。それがこのピンチを招いてるんだしな。


 そして伝来が帰って行って7番の一二三との対戦。一年でまだまだ線が細そうに見える。


 初球、ストレートを投げたが相手は豪快な空振り。かなり力が入ってるように見える。

 2球目もストレートを投げたがこれはボール。でも一二三は反応していた。

 ストレート狙いなんだろうか。


 3球目はスライダーを投げてストライク。

 これには反応をしなかった。やっぱりストレート待ちだ。浅見や他のバッターは全く反応せずに、狙い球が分からないが、一年だからか駆け引きがまだまだだ。


 最後は一番自信のあるカーブで決めさせてもらおう。ランナーが三塁にいて、掬い上げられたらタッチアップの可能性はあるが、明らかにストレート待ちならタイミングを崩せるはず。


 そう思って投げたんだが。


 「マジかよ」


 しっかり踏み込んで待って打たれた。

 打球はレフトへ飛んでいき、ギリギリ柵を越える。


 打った一二三を思わず凝視してしまった。

 どうやら最初からカーブ待ちだったらしい。俺はまんまと騙された訳だ。


 待たれたからといって、俺の一番自信がある球だったんだがな。

 俺は天を見上げながらそう思った。


 

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