第247話 自信


 「試合に出たいな〜♪ ふんふんふ〜ん♪」


 チラッチラッ。


 「試合に出たいな〜♪ ふんふんふ〜ん♪」


 チラッチラッ。


 「豹馬。お前ちょっと黙っとれ」


 さーせん。



 さてさて。ベンチで『試合に出たいな』作詞作曲三波豹馬を鼻歌で歌ってたら、監督にどやされたのはさておき。


 現在は夏の予選、3回戦の真っ最中だ。

 先発は金子で、カーブマスターの名を欲しいままに、相手をくるくると翻弄している。


 打つ方でも前回の試合同様絶好調。

 珍しくレオンと大浦にホームランが出てないものの、今日は隼人と清水先輩がホームラン二本ずつ出ている。


 「高校野球でこれだけホームランが打てる打線ってのも珍しいですよね」


 「そうだね。これで一二三達一年もノってきたら良いんだけど」


 「ですなぁ」


 ベンチでキャプテンとお喋りしながら試合を見守る。スタメンで出てる一二三と速水はまだ固さが抜けないのか、練習で出来てる事を出来ていない。


 一二三はいまいちスイングに思い切りがないように見えるし、速水は今日一つエラーをしてる。何をそんなに固くなる事があるのか。


 「これはテコ入れしないとダメですかね。今はまだ二人の力が無くてもゴリ押し出来てますけど」


 「うん。勝ち上がって行くには下位打線の協力は不可欠だよ。特に三高の伊集院なんて、そう何回もチャンスを作れると思えないし」


 なんだろな。緊張してるんだろうか。


 「やっぱり一年で夏の予選のスタメンに抜擢されるのはプレッシャーなんですかね」


 「俺は経験なかったからなぁ。入った時はそこまで龍宮は強くなかったし。センバツ優勝校って肩書きが邪魔してるのかもね」


 どうやってアドバイスしたら良いのやら。

 俺は緊張しなかったもんで。自分のしてきた練習に絶対の自信があるからね。


 死後の世界であれだけ練習したんだ。

 怪我のリスクもなかったし。俺ほど練習した人間は居ないだろうってぐらい練習した。

 後はそれを試合で出すだけ。そんなスタンスだから緊張のしようがない。


 もしかしたらワールドシリーズ決勝の最後の一球とかは、緊張するかもだけど。

 なんか、たかだか学生の甲子園って思っちゃうんだよねぇ。


 先輩の思いを背負ってるし、ベンチ入り出来なかった人達の分まで、甲子園に連れて行ってあげたいって気持ちはあるけども。どう頑張ったって、練習以上の事は出来ないんだし。


 「練習以上の事をしようとするから緊張して、空回りするんですよ」


 「分かってても緊張しちゃうのが人間って事だろうね。誰も彼もが豹馬みたいに割り切れるもんじゃないよ。俺だって甲子園の初先発は緊張したし」


 ふーむ。それもそうか。自分が出来るからって他人に価値観を押し付けるのは違うよな。そんなのそこらの老害と変わらん。


 「自信をつけさせてあげれば良いんですかね? でも龍宮でレギュラーって結構な自信になると思うんですけど」


 「あの二人、いや一年には自信よりもプレッシャーの方が大きいって事だね」


 難儀なもんですな。

 プレッシャーを力に変えたりする変態とかもいるけど。多分隼人はそんな変態だ。

 チャンスに強い奴なんて、プレッシャーに強い変態に決まってる。


 「隼人と喋らせてみましょうか」


 「それは…どうだろうか?」


 どうでしょうね。口下手でコワモテなチンピラみたいな奴ですけど、良い奴なんですよ? 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る