第245話 初戦


 夏の予選が始まった。

 いや、開会式の日から始まってるんだけど、龍宮はシードって事もあって少し遅めの2回戦から登場。


 そしてその2回戦の先発を任されたのはキャプテンだった。夏の初戦って事でこっちは完璧なフルメンバー。監督は控えに夏の公式戦を体験させるか迷ってたけどね。

 やっぱり初戦ってのはかなり重要で。どれだけ強豪校でも、一回負けたら終わりのプレッシャーに押し潰されて、コロっと負ける事がある。


 だから出すとしたら、大量に点差がついてからかな。一応今日対戦するのは強いところじゃない。言ったら悪いが、初めて聞く様な高校だ。一応試合映像は見たが、普段通りやれば負ける様な相手じゃない。


 1(中) 雨宮

 2(捕) 后

 3(三) 浅見

 4(左) 大浦

 5(遊) 岸田

 6(一) 清水

 7(右) 一二三

 8(二) 速水

 9(投) 三井




 「そりゃこうなるわなぁ」


 「なるよねぇ」


 現在三回表の龍宮の攻撃。

 19-0でリードしている。キャプテンはさっき代打を出されてお役御免という事で、俺の横でクールダウンしながら、攻撃を見ていた。


 「手加減するのは失礼だから全力でやるんだけど、やり過ぎるのも問題なのかなって思っちゃうよ」


 ですなぁ。

 まぁ、そんな事を考えても結局全力で攻撃するんですが。

 レオンと大浦は既に2本のホームランを打ってるし、タイガ、隼人、清水先輩も一本打っている。


 一年でスタメン出場してる一二三少年と速水は第一打席は緊張で空回りしたのか凡退。

 すぐに回って来た第二打席では、二人とも結果を出せてたけど、やっぱり緊張はするよね。俺には無縁の言葉だけど。野球関連に関してはね。


 「相手が投げやりになる感じじゃなくて良かったですね」


 「そうだね。意気消沈して無気力な試合になる事もあり得た訳だから」


 相手はこれだけ点差を離されようが、しっかりと声を出して、一つ一つ丁寧にアウトを取っていく。


 龍宮はセンバツを優勝したって事で、2回戦なのに観客が多い。

 高校生なんて難しい年代の野球少年が、そんなつもりはなくても、晒し者みたいにされてきつくない訳がない。


 正直、俺が逆の立場なら投げやりになってるかも。指導者がよっぽど優秀なのか、それともリーダーシップのある部員がいるのか。


 「両方か」


 監督はベンチに居る部員に負けじと声を出して鼓舞してるし、試合に出てるセカンドのキャプテンも笑顔で、それでいて真剣に声を掛け合って、一つ一つのプレーに集中してる。


 「あ、またいった」


 ウルとタイガをランナーに置いて、レオンがスリーランホームラン。

 今日三本目である。容赦ないね。でも、これが勝負、高校野球ってやつだろう。


 「おお!」


 続く大浦の痛烈な打球をセカンドのキャプテンがダイビングキャッチ。

 ライナーでしっかりと捕球してアウト。スリーアウトチェンジである。


 相手のプレーなのに思わず声が出た。

 それぐらいのファインプレー。

 龍宮目当てだった観客も大きな拍手でさっきのプレーを称える。


 うーん。点差があるから負ける事はないだろうけど、もしかしたらさっきのプレーで流れが向こうにいくかもなぁ。

 キャプテンは代打で既に降板してるし、三回裏からマウンドに上がるのはミズチなんだけど。


 変に気負ったりしないと良いけど。

 

 

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