閑話 三高


 「ほっ。なんや突き指かいな」


 豹馬から来た連絡に僕は胸を撫で下ろす。

 なんや、ニュースで夏絶望とか選手生命が絶たれたやらと報道されて心配しとったんやけど。

 よくある誤報やったらしい。迷惑な話やで。


 「伊集院。三波はどうだったんだ?」


 「ただの突き指やったみたいです」


 「そうか」


 報道を気にしてた先輩や同期も心なしかホッとしてるようにみえる。

 こんな事言ったらアレやけど、普通なら甲子園へのデカい壁がおらんようになるかもって、喜ぶような場面かもしれんけどな。


 三高のメンバーは生粋の野球馬鹿が揃っとる。

 こんな形でライバルの戦力ダウンなんて誰も望んどらんからな。


 「正面から叩きのめせるな」


 「ああ。関東大会で勝ったとはいえ、向こうはベストメンバーじゃなかった。夏が本当の勝負だ」


 三高の野球部員はみんな燃えとる。

 組み合わせ表も出て、決勝まで当たる事はないんやけどな。その前にもお互い強豪校と当たるし、油断は出来ん。


 でも僕達の目標はそれでも龍宮や。

 豹馬は勿論、三井さんや金子の強力な投手陣。

 高校No.1とも称されとる、最強の打線。

 レオンは当たり前やけど、雨宮、后、大浦、岸田。清水さんに一年の一二三もやばい雰囲気を漂わせとる。おかしいやろ。一つの高校に戦力集中しすぎやねん。


 シニア組が豹馬について行ったのは、まぁ分からんでもない。あいつらはなんだかんだ言って豹馬の事が大好きや奴らや。

 でも三井さんとか、清水さんとか、金子に大浦。

 なんでこんなんが今まで埋もれとったんや。スカウトもっと頑張れや。才能見逃しすぎやで。勝弥さんの指導で爆発したんかいな。


 これは桐生の事をとやかく言われへん。

 豹馬といっぱい勝負するために東京にでてきたけど、最初はちょっと後悔したもんなぁ。

 桐生に行ってた方が甲子園優勝出来る可能性があったんちゃうか思て。


 「三井だろうが三波だろうが金子だろうが! 絶対に3点は取ってやる!! だから伊集院! なんとか龍宮打線を2点に抑えて下さい。お願いします」


 ほんま、この野球部は居心地ええわ。

 東京もんは冷たいと思てたんやけどな。

 日が経つ毎におもろくなっていく。


 「1点でええですよ。龍宮完封してみせますわ」


 「おいおい」


 「それは無理だろう。あの打線を完封出来たら即プロだぞ」


 「ビッグマウスも大概にしとけよ」


 「先輩達こそ。あの投手陣から3点は無理ちゃいます? しゃーないから僕が頑張るしかないですやん」


 「生意気な後輩め!」


 三高は既に決勝で龍宮とやる気満々や。

 向こうがそこまででこけると思ってへんし、僕達もこける気なんて一切ない。

 問題は準々決勝で当たるであろう白馬君やなぁ。

 

 松美林は他はそうでもないんやけど、あの人は別格や。レオンと同等レベルを想定して相手せなあかん。バットコントロールだけで言えばレオン以上の可能性もあるわな。


 「おっしゃ。夏への憂いも無くなった事やし、今日もバリバリ練習しましょか」


 絶対負けへんで、豹馬。

 甲子園に行くのは僕達や。

 このメンツで絶対に甲子園に行ってみせる。

 首を洗って待っとけや。


 

 

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