閑話 ウルと神奈2


 「お兄ちゃん。そろそろデートの時間じゃないの?」


 「むっ? もうそんな時間か。これやってると時間がすぐに経つな」


 ある日の月曜日。

 お兄ちゃんは学校から帰って来て、おしゃれな服に身を包みパソコンの前でプニ○のホームランダービーをしていた。

 家族の中で唯一自分だけクリア出来てないのを気にしてるみたいで、隙を見てやってるけど未だにクリア出来てないみたい。


 「ん? 神奈もどっか行くのか? 随分おしゃれしちゃって。可愛いな」


 「あれ? 言ってなかったっけ? 私も今日ウル君とデートするんだ」


 「んなにぃ!?」


 お兄ちゃんは寝耳に水といった表情で、さっきまでは渚とのデートだと浮かれていたのに、一気に般若みたいな顔になった。


 「いつまでもシスコン拗らせてるんじゃないの。私だってデートぐらいするんだから」


 「ウルの野郎。今日会った時そんな事言ってなかったくせに」


 「ほら。早く行かないとデートに遅刻しちゃうよ」


 「ぐぬぬぬ」


 お兄ちゃんは物凄く名残惜しそうにしていたけど、渚とのデートをすっぽかせる訳もなく。

 いそいそと待ち合わせ場所に向かっていった。


 「私もそろそろ向かわなきゃ」


 デートするのは久々だ。

 そろそろお付き合いとかしちゃったりして。





 「面白かったですね!!」


 「そ、そうだね?」


 ウル君と行ったのは映画館。

 渚がお兄ちゃんと見た『彼女は膵臓を愛しすぎている』の2が最近公開されたからすぐに見に来たのだ。ウル君は1をDVDで見て、予習してきたらしいけど、ちゃんと理解出来たかな?

 ウル君は頭がちょっと悪いから心配です。


 「膵臓じゃなくて、肝臓じゃダメなんですか! ってシーンは最高でした!」


 「そ、そうだね?」


 なるほど。ウル君はあんまり理解出来なかった様子。今度漫画を貸してあげよう。

 お兄ちゃんがどハマりして全巻買ってたから、我が家にはちゃんと揃ってあるのだ。

 お兄ちゃんは読み終わったら私にくれたけど。

 なんでわざわざ買ったんだろう? 渚の家でも見たって言ってたのに。


 「神奈ちゃんはお腹空いてる?」


 「ペコペコです!」


 時間はもう夕方を過ぎて、晩御飯の時間。

 映画を見てる時に食べたポップコーンではお腹は膨れません。


 「じゃあ行こうか。近くに良い感じのお店があるみたいなんだ」


 「わざわざ調べてくれたんですか?」


 ウル君が当たり前の様にエスコートしてくれて感動。わざわざ調べてくれたのかな?


 「あははは。ごめんね。さっきパンに聞いたんだ」


 「お兄ちゃんに?」


 あのシスコンを拗らせたお兄ちゃんが、ウル君に素直に教えるかな? 今日のデートの事だって、般若みたいな顔をしてたのに。

 なんかお店に行くのが不安になってきたよ。



 「ありがとうございましたー。またのお越しをお待ちしております」


 「美味しかったね」


 「はい。とても」


 とっても良い店だった。

 おしゃれなお店で、学生が入るのにもハードルは高くない。お値段もそこまで高くはなくて、デートにピッタリと言える場所だった。

 まさかお兄ちゃんがこんなお店を知ってるなんて。流石彼女持ち。侮れないです。


 「今日はありがとう。楽しかったよ」


 「こちらこそ。また誘って下さいね」


 家まで送ってもらって帰宅。

 残念ながら告白イベントはなかった。

 私からアクションするべきなのかなぁ。

 ウル君は私の事どう思ってるんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る