第229話 紅白戦6
六回表。
4番の大浦から。
いきなり突然変異の化け物と戦わないといけない訳だ。いつも打席勝負してる時とはまた違った威圧感。なるほど。他校はいつもこんなのと対戦してるのか。ご愁傷様です。
初球。
アウトコース低めに高速チェンジアップ。
大浦はこれに反応せず見送ってボール。
出方の確認をしたかったんだけどな。ほんと、反応しない奴って嫌いだ。
2球目。
インローへナックルカーブ。
大浦はこれに反応するも、ファール。
こいつは打てると思ったボールは全部振ってくるから嫌なんだ。しかもその打席毎に打てると感じるコースやボールは違うし。
3球目。
インハイへストレート。
大浦はこれにも反応するも空振り。
うーん。絶好調。多分150キロは超えてるな。
4球目。
インコースを抉るスラッター。
しかしこれは見送られてボール。
そのコースを平然と見逃せる精神が凄いよね。
ヘボ審判だったり、フレーミングが上手いキャッチャーだったらストライクって言われてもおかしくないコースだぞ。
5球目。
インコースに三つ続けたから外の球に反応出来るのか。そう思ってアウトコースへ投げる。少し小細工を添えて。
大浦は反応してしっかり踏み込んでスイングしてきた。が、ボールはバットに当たる直前にストンと落ちた。バットは空を切って空振り三振である。
「ふはははは! 滅多に投げない縦スラじゃい」
滅多に投げないから効果的なのだ。
完成度は以前に比べたらマシだけど、まだまだ読まれてたら好打者には普通に打たれる程度のボールである。が、全く頭に無かったら話は別だ。
案の定大浦は頭に無かったみたいだし。
あぁー。良い打者の悔しそうな表情。
たまりませんな。脳内麻薬がどぱどぱと出てくる。これがまた俺の調子を上げてくれるんだ。
そして5番の隼人、6番の清水先輩も空振り三振を奪い、三者連続三振という最高のアウトの取り方でマウンドを降りる。
降りる間際に向こうのベンチをチラッと見て、左手で首を掻き切るポーズをかましてやる。
「あはははは! 怒ってる怒ってる」
それはもう向こうのベンチのボルテージはMAXである。こんな分かりやすい煽りに乗ってくれるとは。余程俺は嫌われてるらしい。
「相手に火を付けてどうすんのさ」
クールダウンをしていたキャプテンに苦言を申される。でもでも、どうせやるなら本気のあいつらと戦いたい。今までも別に本気じゃないって事はないだろうが、これで更にやる気が出た事だろう。
俺がここまで調子に乗ってる風に見せてるんだ。向こうも全身全霊を賭けて挑んでくるはず。
あんなパフォーマンスをしたけど、油断なんて一切してないし、なんなら内心は結構ビビってたりする。しかし。しかしである。俺ちゃんもそろそろもう一段階上のステージへ進みたいのだ。
世界最高の投手になるのに、超高校レベルで足踏みなんてしてられない。
この紅白戦であいつらを捩じ伏せて、俺はレベルアップさせてもらう。
「六回裏、豹馬に打席が回るんだけど。ぶつけられないといいね」
「え、いや、それは…」
な、ないよね…? だ、大丈夫。
タイガとかシニア組のみんなは俺がデッドボールを蛇蝎の如く嫌ってるのを知ってる筈。
何せ前世はそれで野球を辞めてるんだから。
流石にぶつけるなんて事はしてこない。
そう思ってる。………ほんとにやめてよ?
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