第10章 夏へ向けて

第224話 紅白戦1


 「こうして見ると向こうの打線は半端ないな」


 「燃えるよね」


 紅白戦当日。

 この日はピリピリした雰囲気になっている。

 ただの紅白戦なんだけどね。思えばこんなガチでチーム内で対戦する事はなかった。

 控え組はアピールの大チャンスだし、レギュラー組はドラフト候補のキャプテンや、いつも調子に乗ってる俺を叩きのめす事が出来るかもしれない。

 そりゃ気合いも入るってもんよ。


 「プロに入ったらこんな打線と毎回勝負しなくちゃならないだよな」


 「そう考えると魔境だよねぇ」


 いくらうちの打線が強いとはいえ、プロ野球の世界はこんなバケモノ達の巣窟である。

 超高校級や大学生、社会人の選手が集まっており、鎬を削ってる訳だ。

 その事を思えば、ここは抑えないといけないし、向こうは俺達を打ち崩せないと、プロに行っても厳しいって事になるんじゃなかろうか。


 「まぁ、俺は高卒で投手タイトル総ナメを狙ってますけどね!」


 「俺とはライバルになる訳だ」


 そうだなぁ。同じチームなれる可能性はあるけど、成績では競う事になるだろう。

 負ける気はサラサラないが。


 「でもそうか。高卒でプロ入りってなると、レオンとは間違いなく別チームだよなぁ。大浦とも無理だろうし…。きっついなぁ」


 俺とレオンはドラ一で指名される気満々である。

 競合もされるだろうし、大浦もそこに割って入ってくると思ってる。今から別チームになるんだろうなと思うとちょびっと悲しいね。


 「まっ、そんな先の話は置いといて。バケモノ打線の退治といきますか」


 「プロの予行演習だと思う事にするよ」


 ってか、今日はギャラリーが凄い。

 普通に龍宮の生徒も観戦に来てるし、スーツを着たスカウトらしき人も結構居る。

 どこから情報が回ったんだろう。いや、敢えて父さんとかが情報を流した可能性もあるな。

 凄いアピールになるのは間違いないし。

 隠す様な事もないしな。


 一回表。

 レギュラー組の攻撃から。

 まずは先頭のウル。


 「セーフティ警戒!」


 なんかウルの顔がやってきそうだったので、ベンチから声を出す。

 ウルはあんまりしないんだけどね。ここぞという時にやってくるから。


 案の定俺を見て顔を顰めていた。

 ふはははは! ダテに小学4年から一緒に野球をやってる訳ではないのだ!

 お前を塁に出すととにかく面倒なのは分かってる。キャプテンとバチバチにやり合ってくれたまえ。


 初球。

 アウトコースへストライクからボールになるスプリット。ウルは途中でバットを止めてボール。

 初球をスプリットから入るとは。

 プリンスも中々面白いリードをする。出来れば振ってほしいところだったけど、あいつは選球眼も良いからなぁ。


 2球目。

 インコースへのストレート。

 しかしウルは警戒されてるのに、バットを寝かせてセーフティバント。


 「うわっ。プッシュバントか」


 前進してきた一塁手の横を抜けていく。

 中々やらしい。いつの間にあんな技が出来るようになったのか。馬鹿なウルが考えたとは思えない。

 誰の入れ知恵だ?


 セカンドに入ってるのは今までレギュラー組だった三年生。今日のレギュラー組のセカンドは速水が入っている。

 その三年生は、転がるボールを素手で取る。

 所謂ベアハンドってやつだな。

 そしてベースカバーに入っていたキャプテンにトス。タイミングは微妙だったが、判定はアウト。


 「ナイスプレー!!」


 素手でゴロを取るのって意外と難しいんだ。

 それを当たり前のようにこなすのはお見事としか言いようがない。

 ウルを出すか出さないかで、今後のリードも大きく変わってくるしね。


 さっ。ワンアウト取れたし、この調子で三者凡退させてほしいな。

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る