第222話 スカウト


 「豹馬はいきなりメジャーいくんか?」


 「まさか。日本経由するよ」


 まだバスが来るまで時間があるので、それまでは霊山と話をする。

 ってか、こいつこっちに来てて大丈夫なのか?

 チームを抜け出して来てるみたいだけど。高校野球の監督って、こういう単独行動は嫌いそうなもんだけどな。いや、どの部活もか。


 龍宮が緩すぎるだけかも。

 結果が出てるうちは良いだろうけど、これで勝てなくなってきたら、声の大きい老害共はうるさそうだなぁ。俺達はある程度勝ってるのに、髪の毛とか未だに言ってる老害はいるしさ。


 まぁ。それはさておき。

 将来の話をしてる訳ですが。


 「いきなりメジャーに行っても、どうせマイナースタートだし。それにある程度の年齢まで安い年俸でコキ使われるんだぞ? やってられるか」


 「まぁ、せやんなぁ。僕はメジャーはあんまり考えてないから心配する事やないんやけど」


 「え? そうなの?」


 これはびっくらポン。

 俺に対抗意識を燃やしまくってるから、てっきりメジャーにも挑戦するもんだと思ってたぞ。


 「アンダースローって厳しそうって印象があるんよね」


 「そうかぁ? むしろ成功するんじゃねと思うんだけど」


 アンダースローなんてメジャーに滅多にいないでしょ。見慣れないボールの軌道に霊山の完成度。

 これからまだまだ成長する事を加味しても、充分可能性はあると思うけどなぁ。


 「まぁ、そういうのは指名されてからの話か」


 「せやな」


 「なになに? なんの話?」


 そこにやって来たのはウルとタイガ。

 珍しく俺と霊山が二人で話し込んでるから、気になって来たらしい。


 「スカウトの話」


 「高卒でプロに行くか迷っとってな」


 「あーなるほどね」


 うんうんと頷くウルとタイガ。

 この二人も迷ってるらしいからな。

 入学時は大学経由してからのプロ入りを目指してたけど、予想以上の成長と注目度から悩み始めてるらしい。


 今の所龍宮で高卒プロを明確に表明してるのは、キャプテン、俺、レオン、大浦の四人だ。

 他の注目されてる面々は考え中ってところかな。


 「でもねぇ。龍宮の空気に慣れちゃうと、大学野球でやってける自信がないんだよね」


 「分かる」


 大学野球はマジでやばいらしいからな。

 馬鹿みたいな上下関係が未だにあるらしい。

 俺は絶対に無理だ。初日で辞める事になりそう。

 敬う気持ちがない訳ではないけど。北條先輩とかキャプテンは、俺の普段の言動がどうであれ、尊敬はしてる。


 「高卒キャッチャーってきついだろうな。ほぼ間違いなく数年は二軍だろ。レオン並みの打力があれば別だろうけど」


 「キャッチャーはモノになるまで時間がかかるって言うしね」


 どうしてもな。

 そのチームの方針を理解して、監督やらコーチの意図を汲み取り、投手陣の管理をして、更に自分の打撃の結果まで求められる。

 控えめにいってブラックである。野球は大好きだけど、キャッチャーだけは勘弁だな。

 喜んでやってるタイガや他のキャッチャーは素直に尊敬できます。


 「もし大学に行く事になったら一緒のチームになるかもね」


 「岸田はどうなんや?」


 「あー隼人は家庭の事情もあるからね…。奨学金をもらえる特待で入っても、大学ってお金がかかるから…。社会人の方も視野に入れてるってこの前は言ってたね」


 隼人の家もレオンと一緒で母子家庭だからな。

 強面で不良みたいな奴だが、根は良い奴で苦労をかけてる母親を早く楽にさせてやりたいとは思ってるらしい。だから、ドラフトの順位も気にしてるし、下位指名なら社会人の方でやってから、そこでプロを目指す事も考えてる。


 あいつはなぁ。

 得点圏以外でもあの打力を発揮してくれたら…。

 一気に上位指名間違い無しの選手になるんだけど。最近チラホラと打つようになってきたから、もう一声欲しいところなんだよね。

 三振製造マシーン、自動アウトマンの俺が偉そうに言える訳じゃないんだけどさ。

 

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