第217話 VS木更津猫愛3


 試合は進んで八回表。スコアは3-1。

 この回からは金子がマウンドに上がり、ミズチは七回でお役御免となった。

 七回を112球。ヒット5本に四球が2つ。

 しっかり先発の役目は果たしたんじゃなかろうか。


 打線は六回に速水がヒットで出塁、送ってワンアウト2塁になったが、清水先輩は敬遠気味の四球。

 しかし、この日ヒットが無かった一二三少年がフェンス直撃のスリーベースでランナー二人が生還。

 2点を追加している。


 「剛元もなぁ」


 「当たりは良かった」


 一二三の次の剛元は変化球に合い始めている。

 さっきの打席も飛んだコースが悪かっただけで、チェンジアップを上手く捉えていた。

 もう少しの辛抱だな。結果が欲しくても焦らずに頑張ってほしい。

 幸いこの関東大会は、監督が新戦力や控えの育成の場として見てるから、まだチャンスはあるはずだ。


 「ぬっ?」


 あっさりとツーアウトを取った金子がマウンドでしきりに指を気にしている。

 プリンスも不審に思ったのか、審判にタイムを掛けてマウンドに向かう。

 するとプリンスは、金子の指を見てベンチを見る。そして、手で大きくバツマーク。


 「あ? もしかして怪我?」


 やべぇじゃん。

 幸いキャプテンが軽く肩は作ってるけど、金子の怪我は普通に痛いんだが?

 この一年で成長して、これからどんどん躍進するって時に。


 「三井。いけるか?」


 「大丈夫です」


 という事で、金子は打者二人を相手にしただけで交代。慌ててベンチで金子にどうしたのかと聞くと。


 「ちょっと爪が割れちゃった。投げられない事も無かったんだけど、ここで無理する場面じゃないってプリンスに怒られちゃったよ」


 「そりゃそうだ、馬鹿野郎」


 これが最後の甲子園決勝で後一人とかなら、百歩譲って軽く爪が割れたぐらいなら、続投も考えるけどさ。たかだか関東大会。無理する必要なんてどこにもない。プリンスグッジョブ。


 金子の指を見ても本当にちょろっと割れてるだけだし、少しすれば治るだろう。


 「ちゃんと保湿してケアしてたのにな」


 「割れる時は割れるさ」


 ピッチャーに取って爪は命。

 それだけにケアは怠らないようにしてるけど、それでも割れる時は割れる。

 今日が重要な試合じゃなくて良かったね。


 そんな事を思ってるとキャプテンは僅か2球でファーストゴロに打ち取ってベンチに戻ってきた。

 金子がキャプテンの所に行ってお礼を言っている。一応キャプテンは次の試合で先発予定だったからね。まぁ、今日あと30球ぐらい投げても次の試合に影響は出ないだろう。

 二日も空くしね。


 そして八回裏。

 ツーアウトランナー満塁で打席には剛元。

 ここまでヒットはないけど、最後の最後で美味しい場面が回ってきた。


 相手のイケメンバッテリーも、手を変え品を変え巧みな投球術でここまで3失点に抑えてきたが、果たしてこの勝負の軍配はどちらにあがるか。


 初球。

 アウトコースへボール球のスライダーから入ってきたが、剛元は見送る。

 変化球が弱いと情報はあるんだろうが、さっきの打席では明らかにタイミングが合っていた。

 バッテリーはどう攻めてくるか。


 2球目。

 緩いカーブに剛元は反応。

 しかし、掠っただけのファール。

 一度打席を外して深呼吸をしている。

 スコアではうちがリードしているとはいえ、剛元は結果が出ていない。ここでアピールをしなきゃ次はチャンスが無いと思ってるかもしれんな。

 準特で取った事もあって、チャンスは多めに与えられてるけど、それもずっとじゃないしな。

 そのポジションを虎視眈々と狙ってる選手だっているんだ。


 3球目。

 アウトローへのストレート。

 剛元が得意な速球だったんだが、変化球に頭がいきすぎていたのか、手を出せずにストライク。


 「うーん。良い感じに翻弄されてますなぁ」


 「相手のリードが上手いよね。勉強になるよ」


 4球目。

 俺なら流石にもうストレートは来ないと思わせてストレートをもう一回続けるけど。

 剛元はチェンジアップあたりを予想してるんじゃないかな。

 速い球の後に遅い球は王道だし、分かってても体が変に反応しちゃうからね。


 そして相手バッテリーが選んだのはチェンジアップ。案の定剛元のバットの始動が早い。

 しかし足で踏ん張って、最終的に左手一本で上手く掬った。

 打球はレフトの前にポテンと落ちた。

 

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