第205話 VS造新学院3


 一回を三者凡退に抑えて上々の立ち上がりを見せたミズチだけど、そこから順調にとはいかなかった。


 「流石は甲子園常連校。簡単には勝たせてくれませんな」


 「ミズチも良く頑張ってる方だと思うが」


 現在五回裏の造新学院の攻撃。

 スコアは3-2で、2点を返されて尚もワンアウト一.三塁のピンチ。バッターは1番のプロ注好打者である。

 ここまでのミズチは二回からずっと得点圏にランナーを背負っているが、なんとか抑えてきた。

 だけど、とうとうこの五回に捕まってしまった。


 「ミズチはこの回までかなぁ」


 球数はそろそろ100球を超える。

 ブルペンでは金子が既に準備済み。

 ここで打たれたら即交代だろうけど、この回を抑えてもここまでだろう。ボールもさっきから浮き始めてるし。


 「あちゃー」


 「粘れなかったか」


 出来れば抑えて帰ってきて欲しいなぁと思ったけど、すっぽ抜けのスライダーが甘く入った。

 相手打者はそれを見逃さずにレフト前へ。三塁ランナーが返ってきて同点である。


 「金子、后出番や」


 おお。バッテリー毎変えるのか。

 プリンスも最初の打席は打てたものの、後の打席はダメだったからなぁ。ミズチをリードするのでいっぱいいっぱいだったんだろう。

 後はベンチでタイガさんのリードを見て学べという事だと思う。


 「打たれましたー」


 「序盤にシンカーを多投させすぎました。中盤から握力がなくなって抜け球が多かったですね…」


 ミズチとプリンスがベンチに戻ってきて、ドヨンとしている。

 まぁ、一回はスライダーが上手い事決まってたけど、まだ改良途中の未完成品だからね。で、コントロールが定まらなくなってきたから、決め球のシンカーに頼るリードに変えたんだろうが。序盤にちょっと見せ過ぎたね。


 「まぁまぁ。これも経験ってやつよ。後は先輩様の金子君に任せようぞ。このピンチを凌げるかな」


 中々厳しい場面での登板だけど。

 果たして金子はしっかり抑える事が出来るのか。

 ワンアウト一.二塁でヒット一本で勝ち越しまであり得る場面。カーブマスター金子が投げた初球は。


 「甘めのストレートと見せかけてのツーシーム。タイガのリードだろうな。嫌らしい奴だぜ」


 相手チームは同点に追いついていけいけどんどん状態だっただろう。金子の変わりっぱなを叩いて更に勢いに乗りたかった筈だ。

 そこに投げられたのは甘く見えるストレート。

 手を出さない訳がない。が、残念ながらツーシームでショートゴロを打たされて綺麗にゲッツー。

 たった一球でしっかり火消しである。


 「いよっ! 金子大明神! 流石っす!」


 「タイガのリードのお陰だよ」


 くぅー。謙遜しちゃって。

 あそこで甘めのツーシームを投げるのは、中々勇気がいることだぞ? それを金子はしっかり応えたわけなんだから、もっと胸を張ってもいいと思うぜ。


 「金子先輩あざっす!」


 「どういたしまして」


 ミズチは満面の笑みで金子の手を握っている。

 マリンに見られるなよ。


 「后先輩。お見事です」


 「バッターはかなり力が入ってたからね。上手く引っ掛けてくれて良かったよ」


 プリンスはスススッとタイガに近寄って早速リードについて話していた。


 「いいないいな。俺も先輩風吹かしたいな」


 「お前は座っておけ」


 試合に出たい気持ちがむくむくと湧いてきましたよ。ブルペンでアピールしちゃおっかな。

 

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