未冠の大器のやり直し

第203話 VS造新学院1

　一回表。

　龍宮高校の攻撃からで先頭は1番の一年生速水。

　部内三位の俊足で、チャンスメイクに期待だ。

　バッターボックスに入る前にメガネをクイッと上げてから左打席に入る。

　「ウル二世のお出ましじゃい！」

　「よく見てけよー！」

　暇してる豹馬君はとりあえずベンチで声出し。

　公式戦デビューで緊張してるだろうから、少しでも緩和出来ればと積極的に声を出す。

　相手は早速エースの登板。

　スタメンの背番号を見る限り、新戦力も試してるみたいだが、バッテリーはレギュラーを起用しているみたいだ。

　「落ち着いてるなぁ」

　俺の応援なぞ不要とばかりに、速水はしっかりと球筋を見極めてるように見える。

　流石シニアで全国大会を経験してるだけある。

　そして7球目を見送って四球。

　相手エースは立ち上がりがイマイチなのかもしれない。

　2番は俺達と同期の控え。

　堅実な選手で内外野どこでも守れるユーティリティプレイヤーだ。打撃も小技から、時には長打まで打てる器用万能といった感じ。

　こういう選手がベンチに一人居てくれると、監督は助かるだろうなぁ。

　そして2球目をしっかり送って仕事を果たす。

　いぶし銀ですねぇ。

　で、3番はプリンス。

　リードは及第点ってところだが、打撃は中々なもの。ここで存在感を示す事が出来るか。

　「顔に似合わずどっしりとしたフォームなんだよな」

　「地に足がついてて俺は良いと思うがな。どこかの誰かと違ってホームラン狙いのマン振りなんかより全然良い」

　隣に座ってるレオンが辛辣な言葉をかけてくる。

　スイングをコンパクトにしたって当たらないんだから、マン振りして万が一当たった時に長打になった方が良いじゃんね。

　俺の理論は悪くないと思います。雑魚なりに知恵を絞ってるんです。

　「おっ」

　3球目をレフトへのヒット。

　当たりが良すぎて二塁ランナーは返ってこれず。

　しかしワンアウト一.三塁のチャンスだ。

　そしてこのチャンスで迎えるは龍宮高校のリーサルウェポン一二三少年である。

　一般入部ながら、関東大会にて4番に抜擢。

　掲示板民は大注目してるんじゃなかろうか。

　大浦の例があるしね。

　「ほら見ろ。笑顔じゃないか。胃が痛いとか言ってたくせに。あいつはしっかり大物だよ」

　試合前は緊張で胃が痛いとか言ってたのに、いざ打席に入るとこれだよ。

　詐欺だね詐欺。

　そんな事を思いながら見てると、いつの間にかカウントはツーストライクツーボール。一度もバットを振っていないが、相手エースは油断せずに慎重に攻めてきている。

　センバツ優勝校が控え中心とはいえ、4番に据えるぐらいだもんね。

　甲子園常連校ともなると、一年生だからと油断は一切ないみたいだ。

　そして5球目。

　アウトコースに逃げていくスライダーを逆らわずに綺麗に合わせる。

　右中間の間を綺麗に破るツーベース。一塁ランナーのプリンスも帰ってきて、一気に二点先制。

　幸先の良いスタートを切れた。

　「あれで一二三少年にパワーがついたら…」

　「将来が楽しみだな」

　あの子のスカウトを内定を取り消した高校は今頃どう思ってるんだろうか。

　逃したダイヤの原石は余りにも大きかった。

　どうもありがとうございます。

　龍宮高校で大活躍してもらいますね。