第200話 続・変化球講座
俺が首を突っ込むとロクな事にならなそうだと自己解決して、キャプテンの恋は成り行きに任せる事にしたのはさておき。
相談してきたら乗る程度でいいだろう。
「これがいつもスライダーを投げてる三井君。で、これがさっきの三井君ね」
「腕が若干下がってますね」
「うん。曲げようって意識が強すぎるんじゃないかな。曲げたいなら普段のスライダーでいいわけだし、カットボールを投げるならストレートと同じ様に投げなきゃ」
映像でキャプテンの投球フォームを比較しつつ的確なアドバイスを送る輝夜さん。
中々距離が近いので、キャプテンの顔が若干赤い。それに輝夜さんは気付いてないのか、更にグイグイと距離を詰めてアドバイスする。
だめだ。気にしないでおこうと思ったけど、とっても気になります。輝夜さんは天然でやってるんだろうか。もしそうなら、中々罪作りな女である。
「これはアメリカに居た時に同級生に聞いた話なんだけどね。本人はストレートを投げてるつもりなんだけど、何故か全部カットボールになっちゃう子がいたの」
ああ。そういうタイプの投手はメジャーに結構いるよな。日本と違ってアメリカはとりあえず投手の好きな様に投げさせるから。
ナチュラルなストレートを投げられなくても気にしないというか。それを個性として逆に伸ばしていくんだよね。
「で、その子の握り方はこうだったの。三井君はちょっと深く握りすぎじゃないかな? これで一旦投げてみよう」
ぬあーっ! ダメですよ輝夜さん!
手を触れられてキャプテンが茹で蛸みたいになってますぜ! ちゃんとアドバイスを聞いてるのかも怪しいです!
輝夜さんは日本の大学に居たらサークルクラッシャーになってたんじゃなかろうか。
キャプテンはガチガチになりながらもなんとか頷き、マウンドに立つ。
幸いマウンドにはウブな反応を持ち込まないみたいで、真剣な表情だ。
「お?」
良いじゃん。手元でククッと曲がってる。
欲を言えば後もう少しだけ変化量が欲しい。
木製ならともかく、金属はスポットが大きいからなぁ。詰まってもポテンヒットになる事が多々ある。変化量とスピードの質をもう少し上げれば充分一線級の球として使えるだろう。
「あ、ありがとうございます!」
今のアドバイスでキャプテンはしっかりコツを掴んだらしい。早速コーチの仕事をしましたな。
キャプテンの好感度も鰻登りであろう。
「うんうん。もう一つあるんだけどいいかな?」
「はい! 是非!」
完全に調教されたキャプテンの目はキラキラしている。ちょっとしたアドバイスであっという間にコツを掴めたもんなぁ。
「豹馬君。スイーパーを投げる時の握りをしてくれない? あ、ミズチ君も。金子君はスライダーを投げないよね?」
俺とミズチにも話があるらしい。
一体なんだろうか。金子は少しカヤの外になってしまってるけど、興味深そうに握りを試してる。
「さっき言った同級生の子はね。結局メジャー全体5位でドラフト指名されたんだ」
「え? マジすか?」
「うん。100マイル近いカットボールとブレーキの効いたチェンジアップ。それに決め球がスライダーの子でね。結構仲良くさせてもらってたから、その子に色々話を聞いててね」
とんだ化け物じゃないか。
所謂プロスペクトってやつだよな。後で調べてみよう。
仲良くさせてもらってたの辺りでキャプテンが露骨に反応してたけど、輝夜さんは気付いていない。
天然め。なんか可哀想になってきたぜ。
「三人の握りを見てもらったら分かるように、全員微妙に違うよね。何回も投げて自分でしっくりくる握りにしてるんだと思うけど、それでも変わらないのはこれ」
輝夜さんはそう言って中指を指差す。
何? ファッ○って事? 急にディスられた?
まぁ、冗談はさておき。
「中指でボールを引っ掛ける感覚。これが何よりも重要だってあの子は言ってたんだ。どうかな? 普段投げてて意識してる?」
「うーん。俺はサイドから投げてるからか、引っ掛けるというよりは滑らせる感覚なんすよね」
「俺はとにかく手首を立てる事しか意識してなかったなぁ。なるほど。指先の感覚も重要なのは当たり前か」
「俺もっすね」
俺は輝夜さんが言ってる感覚とは少し違うけど、ニュアンスとしては同じ事だろう。
キャプテンとミズチはあんまり気にしてなかった様子。指先の感覚は重要ですぞ。俺は前世、指先の感覚がパァになって諦めたんだから。
「今度から少しでも良いから意識して投げてみてくれないかな? 勿論、あの子がそうだったからみんながそうって訳じゃないから、一概には言えないんだけど」
それから中指で引っ掛ける感覚を養う練習法を教えてもらって今日のブルペン練習は終了。
中指でボールに回転を掛けながら真上に投げるのが意外に難しい。でも感覚は覚えられるかも。良い練習法だと思います。
キャプテンやミズチは新しい武器を手に入れらるかもしれないな。
有意義な時間を過ごせました。大満足です。
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お年玉企画第二弾。
作者、狂気の六作品目を更新します。
『歩く災害と呼ばれた男』
井上尚○の試合に感化されてボクシング系の作品を書いてみました。
作者はくそにわかなので、調べながら書いてますがwww
良かったら是非見てってくださーい。
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