第184話 絶好調?


 「やっぱり『俺と膵臓。どっちが大事なんだよ。俺はこんなにお前の事を考えてるのに』ってシーンかな」


 「あ〜! あそこですか〜! 男優さんの迫真の演技にグッときちゃいますよね〜!」


 いや、正直見てて意味の分からないシーンだったんだけどね。

 なんで膵臓と三角関係みたいになってるんだよ。

 大体の人は膵臓の方が大事だぞ?


 「うん。女優さんも演技が上手だったし」


 とはいえ、楽しんでた渚ちゃんにそんな事言うのはヤボってもんよ。

 いかにもしっかり見てました雰囲気を出していく。


 「女優さんが意を決して膵臓を摘出するシーンは涙無しにはみれないですよ〜!」


 「ね。狂ってるよね」


 あそこが泣けるシーンなんだ。

 俺は何故か笑いが込み上げてきたけど。

 腹立つのが、俳優さん達の演技が滅茶苦茶上手いんだ。なんか真剣に馬鹿な事をやってるのをひたすら見てる感じだった。笑うのも仕方あるまいて。



 その後もなんとか映画の話を躱してステーキが来た所で中断。

 300gとご飯大盛りをぺろりといただく。

 食べ終わった後も軽くお話をしてから店を出た。


 

 「今日は楽しかったです〜! ありがとうございます〜!」


 「俺も楽しかったよ」


 すっかり暗くなってしまってるので、しっかりと家まで送り届ける。

 渚ちゃんほどの女神なら襲われる可能性大だからな。


 「家についたら連絡して下さいね〜!」


 「はいよー」


 しっかり家に入った事まで確認してから俺も帰る。いやぁ。今日は幸せな一日でしたなぁ。

 映画の面白さだけは理解出来なかったけど。


 うははは。テンションMAX絶好調。

 今週の金曜の試合は全打者三振とかやれてしまうかもなぁ!!




 デート翌日。

 ルンルン気分で登校。

 ニュー豹馬に生まれ変わった俺に死角はない。

 しかし。俺にはやらねばならぬ事がある。


 「おはよう! お義兄さん!!」


 「刺すぞ」


 ひえっ。殺すぞより真実味が合って怖いんですが。いやいや。ここで怯えてはならぬ。

 俺の告白大作戦を台無しにしてくれたこいつをおちょくり倒さないと気が済まへんのや。

 喧嘩では勝ち目がなさそうだから方針転換した訳ではない。ないったらない。


 「今日も良い天気ですね! お義兄さん!!」


 「………」


 屈しない!! 豹馬君は無言の圧力にも立ち向かうのだ!!


 「あいたっ」


 ニコニコと微笑み返してやったら叩かれた。

 これ、訴えたら勝てるよね? 俺の勝ちだよね?


 「渚を泣かしたら命は無いと思え」


 「さー! いえっさー!」


 それは当然の事ですな。

 分かりきった事を仰らないで頂きたい。


 「お義兄さん、式はいつが良いと思いますか?」


 「調子に乗るな」


 「あいたっ」


 また叩かれた。はい、もう俺の勝ちね。

 なんの勝敗か分からないけど俺の勝ちね。



 絶好調なテンションで授業を終わらせて本日の練習。

 ボールに俺の気持ちが乗り移ってるのか、キレッキレで球が走りまくっている。

 今の俺は誰にも止められないんじゃなかろうか。


 「豹馬君やばいですね!」


 「せやろ? 今ならレオン相手でも全打席三振で仕留められると思うんや。ちょっと一勝負お願いしてくるわ」


 ミズチからも絶好調に見えたみたいだ。

 これはチャンスだ。最愛の妹に彼氏が出来て消沈してるレオンは調子を崩してるに違いない。

 俺は謎の関西弁をかましつつ、意気揚々とレオンに勝負を持ち掛ける。


 「今日は三打席勝負だ!」


 「望む所」


 前回は五回も勝負したから最後に集中力が切れてホームランを打たれてしまったんだ。

 三打席勝負なら俺の集中だって持続するはず。


 一打席目。

 センター前ヒット。


 二打席目。

 センター前ヒット。


 三打席目。

 センター前ヒット。


 全部綺麗に弾き返されました。

 おかしい。

 


 

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