第179話 輝夜
「不倫? 母さんに言い付けるよ」
「馬鹿言え。俺がそんな事をする訳ないだろう」
父さんが口を開く前にジャブを放つ。
俺になんの相談もなく美人さんを連れてきた罰だ。その美人さんは苦笑いしてるけど。
「お久しぶりです、豹馬君。覚えてますか?」
うわぁ。一番聞かれたくない事を、真っ先に聞いてこないでよ。
確かにどこかで見たなって感じで覚えてはいるさ。でも、この話は既にどこかの高校の偵察員って事で話はついたんだよ。俺の中ではだけど。
「えっと、うーん。顔は見た事あるなぁって。試合も見に来てましたよね? どこかの偵察員かなと思ってたんですけど…」
「あははは。そうですか。会ったのもかなり昔ですから無理はありません。あの時は私は中学生ぐらいでしたからね」
分からないので正直に。
こういう時に知ったフリをすると良くない。
話が進むにつれてわけが分からなくなってくるからね。
「中学生? するってぇと…。日本に帰ってきた時ぐらいに会ったと? え? 輝夜さん?」
「思い出してくれましたか。
ほえー。滅茶苦茶久しぶりじゃん。
輝夜さんは母さんの姉の子供だ。所謂いとこってやつだな。
名前から分かるかもしれないが、理事長の娘さんである。高校の名前は
「あらあらまぁまぁ。輝夜さんも大きくなっちゃって! 全然会ってなかったですけど、何をしてたんです?」
思わず親戚のおばちゃんみたいな喋り方にもなるってもんよ。マジで一回会ってそれっきりだったからな。俺もよく覚えてたもんよ。
「そこは俺から説明しよう」
ここまで空気だった父さんがズイっと前に出てきて自己主張する。
置いてけぼりなのを気にしてたんだろうか。
「輝夜は高校から大学まで留学しててな。最近日本に帰ってきたんだ。それでどこに就職する事になったかというと…」
「え? もしかして龍宮に来るの?」
「……そうだ。良く分かったな」
会話の途中で口を挟んじゃった。
驚かしたかったのかな。残念そうな顔をしている。ごめんねパパ。
それから話を聞くと、どうやら輝夜さんは母さんに影響されてスポーツ科学に興味を持ったらしい。
医学もかじった事があるそうだが。それでどうせならと日本よりも進んでいるアメリカに留学。
行動力が半端ない。
そこから向こうの学校でも優秀な成績を残して、就職もとりあえずはアメリカでしようかと考えていたらしい。
しかし、そこで母の姉。まぁ、理事長をしている叔母が龍宮でコーチをやってみないかと誘ったらしい。
「ほー。凄いなぁ。滅茶苦茶賢いんだ」
「それほどでもありません。日本人で女という事もあって、結構舐められがちですからね。でもスポーツ関係の仕事は日本で女はほとんど受け入れられませんからね。それで仕方ないアメリカで就職を考えてたんです。日本よりは働きやすいですし。でも母に声をかけてもらえたので助かりました。出来れば日本に戻ってきたかったので」
アジア人は差別されますからなぁ。
まぁ、結果を残せばある程度黙らせる事も出来るけど。父さんも最初は面倒だったみたいだし。
俺も将来はメジャーに行きたいから、そういう事も覚悟しておかないと。
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