第178話 美人さん


 試合は危なげなく終わった。

 14-1の五回コールドで勝利。


 初回に金子が四球、送りバント、タイムリーで先制を許したけど、その裏に我らが誇る強力打線があっさり逆転。

 清水先輩と隼人にホームランが出て、好調をアピールしている。


 「金子は先輩キャッチャーと意思疎通が出来てなかったな」


 「試合でタイガ以外に投げるのは久々だっただろうしな」


 初回の四球でちょっとあたふたしたのが今日の反省点かな。

 気合いが空回り気味だったとはいえ、ボール自体は悪くなかった。

 まぁ、一点取られた後はしっかり持ち直したのでそこは良かったな。そのままズルズルと崩れるかと心配したから。


 「もう少しバッテリー陣で話し合いの機会を増やすべきだね」


 「確かに。帰ったら早速やるか」


 タイガの提案はもっともだ。

 公式戦のほとんどはタイガがマスクを被ってるけど、当然控えも重要な訳で。

 もっと話をする機会を増やすか。


 「さてと。帰って話し合いしてから練習すっか。エネルギーがあり余ってるから体を動かさないと気持ち悪いぜ」


 必死に試合中も監督にアピールしてたけど、結局出してくれなかったから。

 まるで俺の事が視界に入ってないみたいだった。

 悲しくて悲しくて震えそうだったぜ。





 「ただいまーっと」


 バッテリー陣の話し合いをしてから、軽くブルペンで投げて練習終了。

 程良く体を動かしてから帰宅した。

 明日は月曜日でオフの日だ。そして渚ちゃんとデートの日でもある。

 三波豹馬の一世一代の大勝負。今日の夜の寝る前にしっかりシミュレーションをしておかなければなるまい。


 「まずは風呂。サウナさんでデトックスだ」


 家がスーパー銭湯って良いよね。

 いつでもサウナに入れるし、大きいお風呂にも入れる。若干肌寒い中で入る露天風呂は最高です。


 いつもの様に常連さんに挨拶してお風呂へ。

 脱衣所で服を脱いで鏡の前に立つ。


 「ふむふむ。俺も結構筋肉ついてきたな」


 「おっ。豹馬君。また大きくなった?」


 「もうすぐ2mっすよ」


 脱衣所でも常連さんに話しかけられる。

 ここは野球好きのおっちゃんが結構集まるんだよね。父さんが有名選手だったってのが大きい。

 お陰で俺も可愛がってもらってる。


 「昔から大きかったもんなぁ。こっちもこんなに成長しちゃって」


 おっちゃんが見てるのは俺の下腹部。

 下ネタが大好きなおっちゃんなんだよね。

 俺のムスコさんは身長相応に大きい。まぁ、小さいよりは良いんじゃないかと思ってますね、はい。

 お相手する女性の方は少し苦しいかもですが。

 いや、そこまで極端に大きくないしセーフか?



 下ネタおじさんとのお話も程々に、サウナに入ってから汗を流す。

 露天風呂で少しばかり長風呂してから、スーパー銭湯内のお食事処へ。

 今日はカツが食べたい。明日の為にも。いや、勝敗を決めるわけじゃないけど、なんとなくね。


 「むむむ? なんであの人が?」


 お食事処でソシャゲをしながら料理の完成を待ってると、外から父さんと、今日の試合も見ていた美人な女の人がやってきた。


 「ふむ? 不倫か。まさかここまで堂々とやるとは。父さんも中々のものですね。ここは家と言っても過言ではないのだが」


 まぁ、冗談はさておき。

 あんな素敵な母さんが居るのに不倫するなんてあり得ないよね。


 そんな馬鹿な事を考えながら、ぼーっとそちらの方を見ていると、父さんが美人さんを伴ってこっちやって来た。


 「え? 困る。慣れてない美人さんと話すには心の準備が一ヶ月はいるんだけど」


 はてさて。一体どちら様なんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る