第176話 ちりつも


 結局思い出せないまま試合が始まり、そして終わった。

 7-0のコールド勝ちである。


 キャプテンは七回を二安打無失点。

 打線は大浦がホームラン一本。この日、3番に入っていたタイガが3打点と大活躍だ。

 出場した他のメンバーも随所で活躍しており、まさに王者の貫禄と言ってもいいだろう。


 「後一回勝てばベスト16か」


 失礼ながらちょっとちょろいと思っちゃったよね。まぁ、東京の強豪校は甲子園出場校と遜色ないレベルで強いから、気は抜けないんだけど。


 「次の試合も俺は出番ないしさ」


 「次は俺だね」


 カーブマスターさんがやる気満々なんだよね。

 気合いの入れ過ぎで空回りしなきゃいいけど。

 次の相手は中堅高といったところだし、そんなに心配はしてないけどさ。




 「体にエネルギーが有り余ってやがる」


 「ねぇ、早く終わらせてよー」


 14時過ぎに学校に帰ってきた。

 公休を取ってるので授業に出る必要はないが、遅れを出したくないので、試合に同伴してなかったマリンにノートを借りて写していく。試合に出てないから捗る捗る。


 こいつ、馬鹿なのにノートは滅茶苦茶綺麗なんだよな。しかもゲームの片手間にノートに書いてるらしい。

 しっかり勉強しながら、ノートを取っていればテスト前に焦る必要はないんじゃなかろうか。


 「ちょくちょくBL本のネタが書いてあるんだけど」


 「ふとした時に思い付くんだよね。アイデアは忘れないようにしなくちゃ」


 綺麗なノートの片隅に、タチだのウケだのが書いてあるとなんだかなぁって思っちゃう。

 名画にコーヒーが溢れてるみたいなもんだろ。


 「それにしてもパンは真面目だよね。タイガ達は練習してるんでしょ?」


 「俺はテスト前に焦りたくないんだ。面倒事は先に片付けておきたい」


 今頑張ってれば、テスト前にみっちり練習が出来るでしょ。みんなにもそう進言したんだけど、レオン以外に共感は得られなかった。

 テスト勉強は一夜漬けでするものだと思ってやがる。小さい事からコツコツと。ちりつもですよ?

 そのレオンも今日は出場がなかったからか、体を動かすために練習してるしな。


 「よし。終わり。ありがとうな」


 「いいよー。じゃあ約束通り、こっちの感想を貰おうかな」


 今日の授業のノートが写し終わると、マリンから差し出されたのは一冊のノート。

 タイトルは『禁断の三角関係』。


 「タイトルだけで登場人物が予想出来ちゃったな」


 「パン待望の新作よ」


 別に待ってはない。

 いや、悔しいけどいつもストーリーは面白いなって思うし、読み終わった後に続きが気になったりする事もあるんだけど。

 読み物としては面白いと思うし、その趣味を否定する気はないんだ。


 ただ、登場人物に俺が出てると恥ずかしいと言いますか、なんと言いますか。

 これが、自己完結してる作品ならまだ良いんだけど、学校中の同志にばらまきやがるからな。

 俺がこういう人間だって勘違いする人もチラホラいるんだよ。


 「たまにお腐りになられた目で見つめられる気持ちが分かるか?」


 「この学校で布教活動をしてから一年。ようやく努力が実ってきたって感じね」


 あー。ほら。俺とタイガとミズチの話じゃん。

 早速書いちゃったか。中学時代も似たようなの見た気がするけど。


 「これは一年離れていた後輩が急接近してきて、タイガとパンを取り合う話になってるわ」


 「知らんがな」


 知らんがな。

 ………感想として面白かったです。はい。

 次回作にも期待してる自分がいます。

 

 

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