第175話 春季大会の始まり


 「春季大会だぜ、ヒーハー!」


 「出る予定がないのに良くテンションを上げれるね?」


 公休を使って平日に試合。

 なんかテンションが上がっても仕方ないだろう。


 「ベンチ入りメンバーしか来てないから応援がないのが残念だけど」


 「観客は春季大会なのに多いよ」


 甲子園効果ってやつだろうな。

 これからも勝ち続ければどんどん増えるだろう。

 スカウトっぽいのもチラホラ見える。


 「やってやるっすよー!」


 あ、大浦君、木製バットデビューです。

 この前チラッと話したんだけど、甲子園で活躍して明確にプロ志望を決意したらしい。

 って事で慣れるなら早い方が良いだろうと、父さんと相談してバットを特注していた。


 「へっ。金属バットですら、芯で捉えられない俺には無縁な話ですな」


 「パ・リーグに指名されないとね」


 送りバントは出来るからセ・リーグでも良いですよ? パは移動が面倒なんだよね…。



 さてさて。

 そんなこんなで春季大会だが、今日は俺の出番はない予定だ。

 先発はキャプテンだけど、野手陣もベストメンバーとは程遠い。

 タイガと大浦、下位打線のメンバーだけだな。

 他は控えの面々が出場する。


 スターティングメンバーが発表されて、観客席からは若干残念そうな声が聞こえたけども。

 正直、龍宮高校はシードさえ取れれば他は負けてもいいと考えている。

 関東大会に出るメリットもそんなにないし。


 「強豪校との対戦経験ぐらいか」


 「後は新戦力を登録できるよね。そこでお披露目ってのもあるみたいだよ」


 ほうほう。でも今のところうちで戦力になりそうなのはミズチとプリンスぐらいだと思うけど。

 ミズチは投手枠として。プリンスはキャッチャーだからな。早めにベンチに入れて勉強させるのも悪くないだろう。


 他の特待メンバーや、一二三少年はまずは高校野球ってのに慣れてもらわないとな。

 夏までにある程度戦力になってくれればいい。

 父さん達の魔改造に期待しよう。


 「ん? あの人は…」


 まもなく試合が始まるってところで、暇潰しに観客席を眺めてると、ジャージ姿でメガネのキリッとした表情で龍宮ベンチを見ている女性がいた。

 歳は20代前半だろうか。中々に美人な人だ。パソコンを片手に持っている。


 「どこで見たっけな。見た事はあるぞ。えーっと思い出せないな」


 あーもうすぐ試合が始まるってのにモヤモヤしてきた。こういうのって一回気になり出すと止まらないんだよね。


 「なぁ、金子。観客席にいるジャージの美人さん見た事ある?」


 「なに? 暇だからって綺麗な人を探すのはやめなよ? 渚ちゃんに愛想を尽かされるよ?」


 決してそんなつもりで見てた訳ではありません。

 ただ、ぼーっと見てたら目に入っただけなんだ。

 それで、どうなんだよ。お前は俺のモヤモヤを解消してくれるのか?


 「うーん。見た事ないと思うなぁ。確かに綺麗な人だし、見たら忘れないと思うんだけど」


 「はぁー、つっかえ」


 モヤモヤは増すばかりじゃないか。

 なんで俺は覚えてないんだ。美人に失礼ではないか。


 「ほら。試合始まったよ。今はこっちに集中して」


 「はーい」


 まぁ、いいか。そのうち思い出すだろ。

 モヤモヤは鬱陶しいけど、致し方無い。

 今日も元気に応援しますか。

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