第174話 一年生の驚愕


 「ぜ、全然歯が立たなかったね…」


 正式に始まった部活の一日目は身体測定だけで終わった。

 部室で意気消沈してるのは一年生ズ。上級生は既に着替えて部室からは出て行っているので、少しダラけ気味になりながら、みんなで集まって話をしていた。


 「速水が50m走でなんとか三位か。他はギリギリ十位内に入れたのが少しと。壁は高いな」


 豹馬にぶんぶん丸と呼ばれていた剛元は、背筋でなんとか九位にランクイン。

 他は十位内に入る事すら出来なかった。


 「体だけが全てじゃないけど、思ったよりも差があるよね」


 「ミズチは何も上位入り出来なかったのか」


 結果表を見て驚く剛元。シニアの準優勝ピッチャーでもランクイン出来なかった事に驚きを隠せない。


 「雨宮先輩の足の速さは分かってましたが、まさか大浦先輩も足が速いとは」


 50m走で三位にランクインし、爪痕を残した速水だったが大浦に負けるとは思っていなかった。

 足の速さには自信があったみたいで、中々ショックを受けている。


 「三波先輩が僕を睨んでくるのはなんでだろう? 何かやらかしたかな?」


 王子ことプリンスは、身体測定中に何度か豹馬に恨みがましい視線を向けられて少しビビっていた。

 これは完全に豹馬の私怨なのだが、プリンスの知るところではない。


 「豹馬君は基本的に馬鹿な事しか考えてないから気にしないでいいよ。どうせどうでも良い事の逆恨みでしょ」


 豹馬信者のミズチがすかさずフォローする。

 信者を自称するだけあって、豹馬の生態にかなり詳しい。このアドバイスもしっかりと的を得ている。


 「信者のくせに中々辛辣な事言うじゃねぇか」


 「俺が尊敬してるのは野球への真摯な姿勢だから。性格は真似しちゃいけないと思ってる」


 信者は中々に手厳しい。


 「はぁ…」


 一年生ズがワイワイと部室内で話す中、一際落ち込んでいるのは一二三だった。

 打席勝負では良いところを見せれず、身体測定も大体の項目が下から数えた方が早い。

 懸命なリハビリのお陰で怪我は完治しているが、成長期にしっかり練習を出来ていない結果が如実に表れていた。


 「そう落ち込むなって! 高校生活は始まったばかりだぜ!」


 「そうそう。俺はまさかあの一二三と一緒に野球を出来るなんて思ってなかったしさ。焦らずにしっかり体を作っていこうよ」


 ドヨーンとしている一二三を剛元とミズチが慰める。怪我のせいで体が出来ていないのと、野球からずっと離れていたので、勘が戻っていないのは見ていれば分かる。

 それでもシニア時代は天才と言われていた一二三だ。高校野球に慣れると戦力になるのは間違いない。


 「うん。そうだね。衰えていた自分の体にがっかりしたけど、二人の言う通り始まったばかりだ。これから死に物狂いでついていかないと。せっかく三波先輩と一緒に野球が出来るんだし」


 「焦り過ぎてオーバーワークだけはするなよ? また怪我なんてしたら洒落にならねぇぜ」


 「豹馬君の隣は俺だからね?」


 なんだかんだと一年生の結束が強くなった。



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