第169話 格付け


 「うーん。やっぱり違和感が凄いな」


 マウンドから見た一二三少年の神主打法。

 じっくり見てもそれで打てるとは到底思えないんだよな。あの天才打者はこれで三冠王とか取ったらしいけど。ちょっと信じられませんね。


 初球。

 アウトコースにボールからストライクになるスラッター。

 ストレートで様子見しようかと思ったけど、なんか嫌な予感がしたので。

 一二三はピクッと反応はしたものの、手を出さずにストライク。


 「こいつあれだな。ゾーンを気にしてないタイプだ。打てる所がゾーンって割り切ってるタイプか」


 これの厄介なのはボール球でも関係なく、打てると思ったら打ってくる所なんだよね。

 逆に、見逃し三振も簡単に取れるって事なんだけど、こいつが振ってこないゾーンを探すのに球数を使う事になる。

 情報が出揃ったら簡単に抑えれるのでは? その時次第で変わるのかもしれないけど。


 2球目。

 高めの外したストレート。

 これには無反応でボール。


 「変化球待ちか?」


 わっかんねぇな。ミズチがレオンって言ってた意味が良く分かる。

 あいつも一二三も待ち球が分からないんだよ。

 打席でもっと反応してくれれば良いんだけど。


 3球目はアウトローへのストレート。

 ベースギリギリを掠めるぐらいにコントロールされたボールでこれはストライク。

 これにも一二三少年は無反応だ。


 「変化球か。変化球なのか? 信じるぞ?」


 4球目。

 さっきと全く同じコースへのボール。

 しかし、一二三は目をぎらつかせてこれに反応した。


 「信じてたぜ。レオンも偶にやりやがるからな」


 ベースの直前で逃げていくボール。

 俺の魔球。ツーシームである。

 一二三は懸命にバットを伸ばすが、届かずに空振り三振。駆け引きでも俺の勝ちだな。


 多分一二三はストレートを狙っていたのだろう。

 しかしそれを悟られないように、決めにくるまで無反応を貫き通した。

 最初のスラッターにちょびっと反応したのが、気になってたんだよね。

 レオンも駆け引きで俺の決め球を誘導してくるからな。


 「ふははは! これが先輩というものだよ!」


 俺は高笑いをあげつつ、ドヤ顔でベンチに戻る。

 そして冷ややかな目でみんなに迎えられた。


 「大人気ない。ツーシームまで投げちゃって」


 「まーた、調子に乗っちゃうよ。レオンさん一つ懲らしめてあげなさい」


 「任せろ」


 ホームランを打ったタイガ君に大人気ないは言われたくないですねぇ。

 大体勝負に大人気ないも何もない。

 勝つ為ならなんでもやりますぜ、俺は。


 「ふははは! 良かろう! そろそろレオンとの勝負にもケリをつけてやろうと思ってたんだ。格付けしてやるぜ!」


 「俺が上でお前が下だ」


 え、そのセリフいいな。

 ちょっと今度使わせてもらっていい?

 強キャラ感が満載じゃないか。


 そしてその後レオンと五打席勝負。

 結果は四打席は抑えたものの、最後の最後で気を抜いてホームランを打たれた。

 どれだけ抑えてもホームラン打たれたら投手の負けなんだよな。


 「ひ、引き分けって事にしといてやらぁ!」


 「そうだな」


 負け惜しみを言ったけど、レオンも勝ったとは思っていないらしい。

 俺とレオンの格付けはまだまだ先になりそうだ。

 

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