第167話 先輩の意地
「あー典型的なぶんぶん丸か」
俺の事じゃないよ? 今打席に入っていた剛元の事だよ?
「あっさり3球で片付けられてるじゃん」
「ストレートや速い変化球には強いんですけどね。緩い球だとああなります」
強打者タイプの剛元は期待してたんだけど。
金子のカーブに良いようにやられて、三球三振。
相性が最悪でしたな。
「さーて一二三少年だ。雰囲気あるなぁ」
剛元が倒れて最後は一二三。
滅茶苦茶笑顔で打席に入っている。
「実戦からはだいぶ遠ざかってたみたいだけど」
「シニアも辞めてたみたいですしね。バッセンとかでも限度がありますし」
右打席に入った一二三少年のバッティングフォームはなんか変だった。なんだろあれ。
「なにあれ? あれで打てるの」
「シニアの時はぽこぽこと。それもあって話題になってたんですよね」
あれだ。神主打法だ。今でも有名な天才打者がやってたって有名のやつだ。
「あれって、あの人にしか出来ない特殊な打ち方なんじゃないの?」
「そう言われましても」
とても理に適ってるとは思わないんだけどな。
まぁ、とりあえずお手並み拝見といきますか。
初球。
金子が投げたのは肩口から急激に曲がるパワーカーブ。金子の数あるカーブの中でも特に打ちにくい球だ。
普通なら腰が引けてもおかしくないんだが、一二三はしっかり踏み込む。
しかし、ボールに僅かに掠っただけでファール。
「良く踏み込めたな」
「うわぁ。笑ってますよ」
スイングした一二三の顔は満々の笑みだった。
こいつは強者との戦いに楽しみを覚えるタイプなのかね。
「豹馬君もいつも笑顔じゃないですか」
「あれは仕方ない。三振の魔力には抗えんのだ」
脳内麻薬がドパドパと出てくるから。
一二三も同じ感じなんだろうか。
2球目はワンバウンドしたスローカーブ。
これは見送ってボール。
3球目はナックルカーブを投げてファールでカウントを稼ぐ。
「タイミングが合ってそうで合ってないな」
「勘が戻ってないんですかね。それとも金子先輩のボールが余程キレてるのか」
両方じゃないかね。
いくら天才とはいえ、金子も甲子園で揉まれてきたんだから。
いきなりアジャスト出来るのは、それこそレオンクラスじゃないと。
4球目と5球目は両方ストレートを投げるも、僅かにゾーンから外れる。
しっかり見極められてる感じはするよね。
「さーてフルカウント。何を投げるのやら」
6球目。
金子が選んだのはインコース低めへのストレート。かと思いきや。
「ツーシームか」
ここまで新入生には一度も投げてなかったツーシーム。
一二三はこれを引っ掛けてサードゴロに終わる。
「ありがとうございました!!」
「こちらこそ」
打ち取られた一二三だけど、やっぱり笑顔。
こいつは将来大物になるのでは。
「いやー疲れたよ」
「お疲れーい」
「お疲れ様です」
ベンチに戻ってきた金子はホッと一息吐く。
それなりに緊張していたらしい。
「みんな怖い打者になりそうだよね。王子と一二三は特に怖かったや。先輩の意地は見せられたかな」
「これは俺も調子に乗ってられないな」
完全王子の力というものを見せてやろうか。
俺だって抑えて後輩にチヤホヤされたい。
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