第166話 カーブマスターの真骨頂


 「自信無くしそうです」


 ベンチに戻ってきたミズチは意気消沈といった感じ。

 シニアで成績を残してたから、かなりの自信はあったんだろうな。

 俺達が高校に入ってすぐ適応してたから、自分も出来ると思っていたんだろう。


 「甲子園優勝チームの上位打線だぞ? 化け物揃いに決まってるだろうに」


 「それはそうですけど」


 うむうむ。しっかり心は折られた様子。

 ここからは、この敗戦をバネにして頑張れるかが重要だぞ。

 高校野球ってのは、急に伸びてくる奴とかも普通にいるからな。

 頑張らないとあっという間に追い抜かれてしまう。


 「じゃあ行ってこようかな」


 次の出番はカーブマスター金子。

 相手は新入生打者だな。

 ミズチのやられっぷりに少し呑まれてる感はあるけど、それでも気合いは充分といったところ。


 「まぁ、初対戦なら大体投手が有利だよね」


 「俺は打たれましたけど」


 「大体の選手は初対戦じゃないじゃん」


 シニアの時にバッピはしてたんだし。

 ある程度は分かってたところもあるだろう。


 「初対戦の金子は中々手を焼くと思うぞー」


 「甲子園で見ましたけど、カーブの投げ分けが頭おかしいレベルですよね」


 「本人の自己評価は低いけどな」


 後輩を抑えて少しは自信を持ってくれたら良いんだけど。掲示板民が居なかったら、今頃どうなってた事やら。


 まずは最初の対戦はクール系男子の速水。

 体格からの想像になるけど、ウルみたいに足で勝負する感じなのかな?

 バットコントロールはどれぐらいなのだろう。

 白馬君ぐらいイカれてないと、初見で金子を捉えるのは難しいと思うが。


 初球。

 左打者の膝下へのパワーカーブ。

 速水は見送ったが判定はストライク。


 「あれ、打席で立って見るとかなり厄介なんだよな。一回視線を上に向けられるのに、コースは低目にくるんだから」


 「真上から落ちてくる感じなんでしょうね」


 なんか二回曲がってるように見えてしまう。

 あれはレオンでもホームランにするのは難しいのでは?


 ミスフ○の鹿目みたいな感じ?

 あれはフィクションだけど。

 金子がのだのだ言ってたら笑っちゃうかも。


 2.3球目はスローカーブ。

 ファールで逃げたのとボール球でカウントはワンボールツーストライク。

 そして4球目に投げられた高めのストレートの釣り球に空振り三振。


 「今回は金子が組み立てもやってる筈だけど、中々様になってるな」


 甲子園と掲示板民のお陰で一皮むけたね。

 これからの成長が楽しみだ。


 「あー速水はかなり悔しそうですね。選球眼は良い方だったんですが」


 「金子はストレートも速くなってきてるからなぁ。中学とは一段レベルが違うってのが良く分かっただろうよ」


 続いて、王子ことプリンス。

 キャッチャーにはタイガっていうレギュラーがいるけど、果たしてバッティングセンスは。


 「顔に似合わないフォームだな」


 「それは分かります」


 プリンスはハーフって事でかなりイケメンだ。

 シャープなバッティングフォームなのかなと思ったらどっしりとオープンスタンスで構えている。


 「ふむ。ノーステップか。タイミング取るのは上手そうだな」


 初球のアウトコースのストレートを早速当てていく。ファールにはなったけど当たりは悪くなかった。


 「速水の打席である程度見れたのも大きいと思いますけどね」


 「なるほど」


 スローカーブと普通のカーブもファール。

 当てるのは上手いな。それが前に飛ばなかったら意味はないけど。


 しかし、結局5球目のパワーカーブを空振り三振。プリンスはしきり首を傾げてるな。

 予想よりも変化したんだろう。


 「ここまでは圧巻のピッチングだな。流石カーブマスターってところか」


 後は強打者タイプっぽい剛元と、怪我する前は天才と呼ばれていた一二三少年。

 金子がどうやって料理するのか、楽しみですな。

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